【平成30年度】 建設業における精神障害の労災認定事案の詳細分析に関する研究
研究要旨
建設業における精神障害の労災認定事案の特徴をより詳細に明らかにするために、平成22年1月から平成27年3月の間に業務上認定された精神障害事案合計149件(男性138人、女性11人)の調査復命書を分析した。
男性は生存54.4%、自殺死亡34.9%(未遂を含むと36.2%)、自殺以外死亡2.0%で、職種ごとの自殺死亡割合は管理職等42.9%、現場監督等50.8%であった。女性は全例が生存であった(7.4%)。業務による出来事として、長時間労働28.9%、労災事故の被害24.2%、仕事内容・量の大きな変化18.1%が上位3位を占めた。生存例における最多の出来事は労災事故の被害35.9%で、技能労働者等では60.4%に及んだ。自殺例においては長時間労働が最多で51.9%に上り、どの職種も一貫して多かった。長時間労働や連続勤務を高率に伴った出来事は、仕事内容・量の大きな変化、重大な仕事上のミス、顧客・取引先からのクレームであった。仕事内容・量の大きな変化の内容を検証すると、管理職等では前任者や上司の休職に伴う残務処理、前任者からの引継不全、現場監督等では対応困難な現場、新たな業務、未経験の業務、頻繁な設計変更を経験していた。長時間労働や連続勤務を高率に伴った仕事内容・量の大きな変化、重大な仕事上のミス、顧客・取引先からのクレームがあった事案はいずれも大半がF32(うつ病エピソード)と診断され、自殺による死亡も多かった。精神障害認定事案とよく関連した労災事故の被害の内容を調べると、足場など高所からの墜落・転落が最も多く、次いで重機、化学物質、過去の労災などに伴うことが認められた。
これらの結果から、建設工事の個々の過程を見直して労働時間の著しい延長を避けるとともに、建設安全をそれぞれの現場で確実に保証することが本業種で働く労働者の精神障害を予防するのに有効と考えられた。