【平成29年度】 脳・心臓疾患及び精神障害の労災請求事案の実態に関する研究
研究要旨
過去約5年間のわが国における脳・心臓疾患及び精神障害で労災請求され支給・不支給決定された事案(「業務上」及び「業務外」事案)についてデータベース化された情報から、これまで包括的な報告がなかった労災請求事案の実態を把握することを目的とした。
平成22年1月から平成27年3月までの脳・心臓疾患と精神障害の労災請求事案について、全国の労働局及び労働基準監督署より収集された関連情報から構築されたデータベースを解析した。データベース化されたのは脳・心臓疾患事案3,525件(業務上1,564件・業務外1,961件)及び精神障害事案のうち平成23年12月策定の「心理的負荷による精神障害の認定基準」に基づいて業務上外が決定された3,543件(業務上1,369件・業務外2,174件)であった。
脳・心臓疾患については、男性が約9割、発症時年齢は50~59歳で1/3超、決定時疾患の約3割が脳内出血で最も多く、くも膜下出血、心筋梗塞、脳梗塞、心停止、解離性大動脈瘤と併せた6疾患で96%超であった。健康診断を受診している者では脳内出血及び脳梗塞の発症割合が低く、既往歴、不規則勤務又は拘束時間の長い勤務が有ると心筋梗塞の発症割合が高かった。精神障害については、男性が6割超、特に自殺事案では9割超が男性、発症年齢別では男女とも30~39歳及び40~49歳がほぼ同数で最も多かったものの自殺事案において男性は40歳未満で半数近くを女性は29歳以下が半数以上、疾患については生存事案において男性は「神経症性障害,ストレス関連障害及び身体表現性障害(F4)」と「気分[感情]障害(F3)」が同程度の割合、女性はF4の割合が高く、男女ともにF3とF4で95%超を占め、自殺事案においては男女ともにF3の割合が高かった。男女とも最も多かった出来事は「上司とのトラブル」であったが、概ね長時間労働関連の出来事と複合的に認められた。
以上から、脳・心臓疾患の発症は、長時間労働対策とともに健康管理や労働負荷に着目した対策により低減できる可能性があること、精神障害の発症を予防するには長時間労働対策と並行的に対人関係やメンタルヘルス対策等を実施する必要があることが示唆された。