労働時間がメンタルヘルスに及ぼす影響(オーストラリア人を対象とした研究報告)

労働時間がメンタルヘルスに及ぼす影響(オーストラリア人を対象とした研究報告)
目次

出典論文

Milner A et al. Working hours and mental health in Australia: evidence from an Australian population-based cohort, 2001-2012. Occup Environ Med. 2015 Aug;72(8):573-9. PMID: 26101295.

著者の所属機関

Deakin University(オーストラリア)等

内容

労働時間と健康に関するこれまでの研究では、長時間労働が疾患発症(精神疾患や心疾患)に関与することを示した報告がある一方で、労働時間とこれらの疾患には有意な関係はなかったとする報告もあり、一致した見解が得られていない。その理由として、このような調査では特定の企業等の従業員が対象とされることが少なくないため、研究ごとに対象とする職種が異なり、比較が難しいことが挙げられる。本研究は、特定の企業等ではなくオーストラリア人全般(労働者18,420名)を対象とした調査であることが特長とされている。週当たり35-40時間を基準労働時間に設定し、それより長いまたは短い労働時間がメンタルヘルス(mental component summary: MCS_SF36)に及ぼす影響が検討された。本研究における労働時間の分類は以下の通りである:基準労働時間未満(34時間以下/週)、基準労働時間(35-40時間/週)、長時間労働A(41-48時間/週)、長時間労働B(49-59時間/週)、長時間労働C(60時間以上/週)。 解析の結果、男女とも49時間以上の労働がメンタルヘルス低下に影響することが示唆された。この結果に関する著者らの考察では、長時間労働(49時間以上/週)が睡眠不足に伴う疲労蓄積や生活習慣の乱れを引き起こし、これらがメンタルヘルス低下の要因となる可能性が指摘されている。また、高い業務能力を要する職種(マネジャーや専門職)において、労働時間が長くなるほどメンタルヘルス低下の程度が大きいことが示された。業務上の責任が大きいことがメンタルヘルス低下に影響した可能性がある。さらに、女性は男性より長時間労働によるメンタルヘルス低下の程度が大きい傾向が見られた。家事等の職場以外での無償労働が影響している可能性が指摘されている。

解説

メンタルヘルス低下に影響する労働時間のボーダーライン(49時間以上/週)を提示した重要な報告である。本研究で設定された基準労働時間(34時間/週)は、日本の法定労働時間(40時間/週)より短い点にも留意する必要がある。