過労死問題を初めてとりあげた科学論文.過労死発症につながる要因を事例調査によって検討
目次
出典論文
上畑鉄之丞. 脳・心血管発作の職業的誘因に関する知見. 労働科学58(6), 1982
著者の所属機関
杏林大学医学部
内容
1973年から80年までの8年間の間に、著者の元に相談に訪れた脳心血管障害の急性発作を生じた52名の事例を対象にして、過労死発症の誘因となった職業性ストレスの内容について検討した。その内訳は以下のとおりであった。対象者の年齢は30-54歳までが48名と全体の9割を占めており、病名は脳血管疾患36名、心疾患16名であった。作業態様としては、管理的職務に従事する者が7名、知的・専門的技術労働を主とする者が15名、運転労働に従事する者が9名、夜勤・交替制労働に従事する者が11名、重筋労働に従業する者が7名で、その他が3名であった。過労死発症前の災害的な職業性ストレスの要因として考えられたのは、作業態様の違いによって、若干の相違が考えられたが、次の要因であった。慢性あるいは急性反復ストレスとして、長時間労働、休日なし労働、深夜勤労働の増加、作業上の責任負担、出張機会及び作業密度の増大があげられた。さらに、発症直前の急性ストレスとしては、一時的な激しい重筋労作、寒冷、暑熱などの気象条件、発熱などの身体的不調であった。
解説
過労死の概念の提唱者として知られる著者の論文で、過労死の研究を行うに当たり、重要な論文として知られている。論文が出たのは過労死問題が社会に広く認知されるようになった1980年代であるが、ここにあげられている過労死発症につながる職業性ストレス要因は、現代社会においても同様に指摘できる重要なことである。