日本における過労自殺:業務関連の自殺22事例の特徴
出典論文
Amagasa T et al. Karojisatsu in Japan: characteristics of 22 cases of work-related suicide. J Occup Health. 2005 Mar;47(2):157-64. PMID: 15824481.
著者の所属機関
メンタルクリニックみさと等
内容
長時間労働および他の心理社会的要因が労働者の自殺企図に及ぼす影響を検討するため、業務関連の自殺22事例について、遺族や法律専門家などによる労災・訴訟関連書類、遺族への面接調査などにより収集された資料を分析した。精神科医2名が独立して22事例についての関連資料を分析した後、臨床疫学者1名を加えた3名により事例検討を行い、各事例の特徴を分析した。22例のうち、1例を除き全例が男性であり、自殺時点の年齢は24歳-54歳(中央値は35歳)であった。17例は民間の雇用者、5例は教員を含めた公務員であった。22例中17例が昇進、転勤、配置転換などの出来事を経験していた。ソーシャルサポートの不足や業務の要求度の高さは18例で、裁量権の低さは17例で確認された。長時間労働(3か月以上に渡り1日11時間以上の労働)が確認されたのは22例中19例であった。昇進や転勤などの出来事から自殺までの期間は5か月?18か月(中央値は11か月)、精神障害の発症から自殺までの期間は2週間~8か月(中央値は2か月)であった。22例中10例は身体的な不調により内科医を受診していたが、精神科受診歴のある事例や、昇進や配置転換の際にストレスマネジメントに関する教育を受けたことのある事例は確認されなかった。なお、22例全例が国際疾病分類第10版(ICD-10)におけるうつ病エピソードと診断されていた。
解説
わが国における「過労自殺(karojisatsu)」事例について、労災・訴訟関連書類や遺族との面接を通じて得られた詳細な情報をもとに検討し、英語で報告された貴重な文献であり、過重労働に関連する多くの研究で引用されている。過労自殺事例22例のケースシリーズ報告であるため、長時間労働、業務要求度の高さやソーシャルサポートの少なさなどの要因と自殺企図との因果関係を明らかにはできないものの、事例の約半数が自殺前に身体愁訴により内科医を受診しているなど、過労自殺を予防するうえでの重要な介入ポイントを示唆する研究報告である。本稿が出版されたのは2005年であるが、本稿で示されている過労自殺事案の概要は、2016年時点で行われている精神障害の労災認定事案の分析における自殺事案の動向と相通じるものがある。