韓国における職業性精神障害・自殺の労災請求事案についての記述的研究

韓国における職業性精神障害・自殺の労災請求事案についての記述的研究
目次

出典論文

Lee et al. Descriptive study of claims for occupational mental disorders or suicide. Ann Occup Environ Med. 2016 Oct 20;28:61. PMID: 27777785

著者の所属機関

Hanyang University(漢陽大學校)

内容

2010年-2014年の韓国における精神障害の労災請求事案の実態について明らかにするため、当該期間に同国の労災保険法(Industrial Accident Insurance Act)に基づき精神障害の労災請求がなされた全事案についてデータベース化し分析した研究である。
韓国労働者補償・福祉機構(Korea Workers Compensation and Welfare Service)が保有している、2010年-2014年に請求され、かつ2015年4月までに補償の可否が決定された労災請求事案569例についてのデータセットを作成し分析した。労災請求事案の約75%は男性であり、年齢階級別では40-49歳が最も多かった。職種別では男性では管理的職業従事者、女性では事務従事者が多かった。対象期間の5年間で189例が労災と認定されており、認定率(認定事案数を請求事案数で除した割合)は33%であった。疾患別(重複例を含む)では自殺が請求事案の23%を占め最も多く、以下、うつ病、適応障害、外傷後ストレス障害(PTSD)、急性ストレス障害の順であった。疾患別での認定率が高かったのは、急性ストレス障害やPTSDであった。業務上・外の判断の要因別に見ると、認定事案で顕著に多かったのは身体的外傷、雇用問題、違法行為・経済的損失に関する問題、職場での暴行などを含む急性のストレスフルな出来事であり(56%)、以下、恒常的な長時間労働、職場環境の変化や人事異動、業務負荷量の変化であった。一方で、業務外と判断された要因で最も多かったのはストレス強度の低さであった。業務以外の要因による発症として業務外と決定された事案も多かった。

解説

わが国同様に長時間労働の蔓延が指摘され、それに伴う精神障害・自殺が労働衛生上の大きな課題となっている韓国における精神障害の労災請求事案の実態に関する報告である。過労死等防止調査研究センターが中心となって進めているわが国の精神障害の業務上および業務外事案の解析研究と研究デザインなどで共通する点も多く、国際比較という観点からも興味深い内容となっている。わが国における実態と同様に、韓国においてもハラスメントなどの対人関係、雇用・人事問題、仕事の失敗や違法行為などに起因する精神障害の労災事案は多く、長時間労働以外の要因にも着目した過労死等対策の重要性を示唆する報告である。