長時間労働と冠動脈性心疾患:システマティックレビューとメタ分析

長時間労働と冠動脈性心疾患:システマティックレビューとメタ分析
目次

出典論文

Virtanen M, Heikkilä K, Jokela M, Ferrie JE, Batty GD, Vahtera J, Kivimäki M. Long working hours and coronary heart disease: a systematic review and meta-analysis. Am J Epidemiol. 2012 Oct 1; 176(7):586-96. doi: 10.1093/aje/kws139 PubMed PMID: 22952309

著者の所属機関

フィンランド労働衛生研究所等

内容

著者らは、長時間労働と冠動脈性心疾患(CHD)との関連性を調べた研究の結果をまとめた。使用されたデータソースはMEDLINE(2011年1月19日まで)およびWeb of Science(2011年3月14日まで)であった。出版バイアスなどを評価した結果、英国、米国、日本などの12編の研究(症例対照研究7編、前向きコホート研究4編、および横断研究1編)が選定された。計22,518名の労働者(うちCHDは2,313例)を対象としたメタ分析を行った結果、長時間労働群(>50時間/ 週、あるいは>10時間/日)は対照群(<50時間/ 週、あるいは<10時間/日)と比べて、冠動脈性心疾患リスクは1.59倍(95% 信頼区間:1.23~ 2.07)~ 1.80倍(95% 信頼区間:1.42~ 2.29)に上昇した。4編の前向きコホート研究では相対リスクが1.39倍(95%信頼区間:1.12~ 1.72)、7編の症例対照研究では相対リスクが2.43倍(95%信頼区間:1.81?3.26)に上昇した。結論として、前向きコホート研究の結果は、長時間労働の従業員のCHDリスクは対象群と比べ、約40%高くなることを示唆している。

解説

長時間労働は過労死(脳・心臓疾患)の誘因としても注目されてきた。本論文に含まれた研究は、サイズ、デザイン、地域、対象者、長時間労働者群の設定など様々な点で異なるが、長時間労働が冠動脈疾患の増加との関連が認められた。一方、長時間労働と心血管系疾患リスクの増加との関連が認められない研究も少なからず存在している。長時間労働が健康問題を引き起こす過程には、労働時間以外に、他の仕事の負担要因、疲労回復時間の減少などの要因が複雑に絡んでいると考えられる。上述したように冠動脈疾患リスクの増加は労働時間以外の要因の影響も否定できないが、長時間労働が仕事負荷の増加、疲労回復時間の減少と直結しているため、その影響は大きいと予想される。今後、これらの要因を総合的に考慮した研究は必要であると考えられる。

劉 欣欣(りゅう しんしん)
記事を書いた人

劉 欣欣(りゅう しんしん)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の上席研究員で、心血管系チームに所属。専門分野は人間工学、労働生理学。実験研究を担当しており、作業中の生理負担を解明、その負担の軽減策を検討。千葉大学工学研究科の産学官連携研究員を経て現職につく。