長距離バス運転手におけるストレスと炎症マーカーの関連

長距離バス運転手におけるストレスと炎症マーカーの関連
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出典論文

Tsai et al. High job strain is associated with inflammatory makers of disease in young long-haul bus drivers. J Occup Health Psychol. 2014 Jul; 19 (3): 336-47. doi: 10.1037/a003600.

著者の所属機関

国防医学院(台湾)

内容

本研究の目的はジョブストレイン(仕事上の要求度が高く、裁量度が低い状態)と炎症マーカーの関連を調べることであり、また、ジョブストレインに関与する要因を調べることであった。825名の長距離バス運転手が台湾の交通会社からリクルートされた。心理社会的な職場環境の要因は、Job Contents Questionnaireによって調べられた。炎症マーカーとしては血中の高感度C反応性蛋白(hs-CRP)とホモシステイン(Hcy)が測定された。ロジスティック回帰分析の結果、ジョブストレインの炎症マーカー高値(hs-CRP > 1.0 mg/L、Hcy > 15.0 µmol/L)に対するオッズ比は有意でなかった。しかしながら、ジョブストレインと年齢の交互作用が有意であり(p = .014)、35歳未満のドライバーにおいては、ジョブストレインが高いとCRPが高値である事が示された(OR = 2.71)。一方で、35歳から49歳のドライバー、50歳以上のドライバーではそのような関連は認められなかった。若いドライバーにおいて、高いジョブストレインは、シフト間の休憩が8時間未満であること、休日に身体的に非活動的であること、頻繁に1日12時間以上の運転をすることと関連していた。オフの時間を増やし、睡眠制限を減らし、身体活動を増やすために、適切な仕事のシフトのシステムが必要である。

解説

平成29年度に発表された過労死白書では、脳・心臓疾患による過労死等の事案数は運輸業・郵便業で最も多かったことが報告されており、その対策の必要性が指摘されている。長距離ドライバーを対象とした研究は日本や海外において十分に行われているとはいえず、本研究のような比較的大規模なサンプルの研究の知見は重要である。また、循環器疾患に関連する炎症マーカーを用いている点もこの研究の一つの特徴的な点である。ジョブストレインという観点から分析がされているが、シフト形態についても話が及んでおり、有益な情報を提供している。

井澤 修平(いざわ しゅうへい)
記事を書いた人

井澤 修平(いざわ しゅうへい)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の上席研究員で、専門分野は精神神経内分泌免疫学、産業保健心理学、産業ストレス。早稲田大学先端科学・健康医療融合研究機構などでの職歴を持つ。現場介入調査チームでバイオマーカーの部分を担当し、ストレスや過重労働の生理的な影響を、唾液、毛髪、爪に含まれるホルモンなどによって評価している。モットーは「才能とは努力を継続できる力である」。オフの時間はインドア派で、TVドラマを見たり、ゲームをしたり、本を読んだりして過ごす。