11時間未満の勤務間インターバルと夜勤は労働災害の発生と関連する

11時間未満の勤務間インターバルと夜勤は労働災害の発生と関連する
目次

出典論文

Vedaa et al. Short rest between shifts (quick returns) and night work is associated with work-related accidents. International Archives of Occupational and Environmental Health. 2019 [Epub ahead of print]

著者の所属機関

ノルウェー科学技術大学等

内容

目的:本研究は看護師を対象として、11時間未満の勤務間インターバル(※海外では11時間未満の勤務間インターバルをクイック・リターンと定義して研究がされている)と夜勤が自己報告に基づく労働災害、ニアミスあるいは仕事中の居眠りと関連があるかどうかについて検討することが目的であった。
方法:本研究は1,784名の看護師(回答率;60%、平均年齢±標準偏差;40.1±8.4歳、女性の割合;91%)を対象として横断調査を行った。負の二項回帰分析を用いてシフトへの曝露と8種類の労働災害(1.仕事中に不意に居眠り、2.車で出勤あるいは退勤の途中に居眠り、3.自分自身を傷つけてしまった事、4.もう少しで自分自身を傷つけてしまいそうになった事、5.患者あるいは他の人を自分のせいで傷つけてしまった事、6.もう少しで患者あるいは他の人を自分のせいで傷つけてしまいそうになった事、7.機器を自分のせいで壊してしまった事、8.もう少しで機器を自分のせいで壊してしまいそうになった事)の関連性について検討した。その際、年齢や性別などの背景要因と労働関連要因を調整して解析を行った。
結果:過去1年間のクイック・リターンの回数と8種類の労働災害の内、7つがポジティブな関連性にあった(つまり、クイック・リターンの回数が増えれば増える程、労働災害の数も増える関連性)。くわえて、過去1年間の夜勤回数と5つの労働災害でポジティブな関連性が観察された(つまり、夜勤回数が増えれば増える程、労働災害が増える関連性)。具体的には、クイック・リターンと自分自身を傷つけてしまう事 (incidence rate ratio [IRR] = 1.009; 95% CI = 1.005–1.013)、患者あるいは他者を傷つけてしまう事 (IRR = 1.006; 95% CI = 1.002–1.010)、機器を壊してしまう事 (IRR = 1.004; 95% CI = 1.001–1.007)と関連性が認められた。一方、夜勤回数は仕事中に不意に居眠りしてしまう事 (IRR = 1.015; 95% CI = 1.013–1.018)、出勤あるいは退勤時の運転中に居眠りしてしまう事 (IRR = 1.009; 95% CI = 1.006–1.011)、患者あるいは他者を傷つけてしまう事 (IRR = 1.005; 95% CI = 1.001–1.009)と関連性が確認された。
結論:クイック・リターンと夜勤はともに自己報告による労働災害、ニアミス、仕事中の居眠りと関連性があった。今後は、クイック・リターンと労働災害の因果関係の検討が必要である。

解説

本研究は、看護師を対象として、過去1年間の11時間未満の勤務間インターバル(クイック・リターン)と夜勤の回数が労働災害等の発生とどのような関連性にあるのかについて自記式の質問紙により、横断調査デザインで検討したものである。主な知見としては、クイック・リターン回数は調査で尋ねた8つの労働災害の内、7種類の労働災害と有意な関連性が、夜勤回数は8つの内、5つの労働災害と有意な関連性が認められた。著者らは、この結果は、一見、クイック・リターンの方が夜勤よりも労働災害の発生に密接に結びついているという印象を与えるものだが、解釈には十分な注意が必要であると結論付けている。つまり、クイック・リターンの短期的な影響(睡眠や眠気、疲労)については、これまでの知見でも検討されているが、長期的な影響については、夜勤の影響に比べて、まだ不明な点が多い事を理由として上げている。くわえて、本研究は過去1年間のクイック・リターンと夜勤の回数を回答者に思い出させて尋ねているため、想起バイアスの影響があることは否めない。また、今後の課題としては、勤務先の勤怠記録を用いた客観的な労働時間データによるクイック・リターンおよび夜勤の回数の把握や、縦断調査での検討が本研究での知見を強化するためのカギになるだろう。いずれにしても、これまでは主に健康の側面で検討がなされてきた勤務間インターバルの研究が安全の側面にも焦点を当てた研究が広がってきたことは注目すべき動向であろう。

久保 智英(くぼ ともひで)
記事を書いた人

久保 智英(くぼ ともひで)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の上席研究員で、専門分野は産業保健心理学、睡眠衛生学、労働科学。労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所の他、産業医科大学での職歴を持つ。フィンランド国立労働衛生研究所での客員研究員としての活動も経験。モットーは「やってやれないことはない、やらずにできる訳がない」。研究のイロハを教えてくれた師匠たちを尊敬している。