平日と休日の睡眠時間と脳・心臓疾患の関連性:中国南部で行われた横断調査研究

平日と休日の睡眠時間と脳・心臓疾患の関連性:中国南部で行われた横断調査研究
目次

出典論文

Hu et al. Sleep duration on workdays or nonworkdays and cardiac-cerebral vascular diseases in Southern China. Seep Medicine, 47, 36-43. 2018.

著者の所属機関

南昌大学第二附属医院等

内容

本研究の目的は、中国南部における平日・休日の睡眠時間と心筋梗塞・脳卒中の関連を検討することであった。2013年11月から2014年8月までの間に中国南部で15,364名(15-97歳以上)を対象に横断調査を実施した。調査票により睡眠時間(平日、休日)と既往歴(心筋梗塞、脳卒中)のデータを、診察により体重、身長、胴囲、血圧等を収集した。多変量ロジスティック回帰分析により、それらの関連を評価した。その結果、心筋梗塞のリスクは、6-8時間の睡眠時間を基準としたとき、平日と休日の睡眠が6時間未満で有意に高かった(オッズ比= 3.17、2.04)。性別、年齢別(65歳未満、以上)で分析した結果、男性及び65歳未満は全体と同様の結果となったが、女性では平日の睡眠時間が短い場合のみ心筋梗塞のリスクが有意に高く(オッズ比=2.66)、65歳以上では有意な関連は見られなかった。脳卒中のリスクは、6-8時間の睡眠を基準としたとき、休日の睡眠時間が6時間未満で有意に高かった(オッズ比=1.61)。性別、年齢別に分析した結果、65歳以上のみ休日の睡眠が短い場合は脳卒中のリスクが高かった(オッズ比=1.73)。また、高血圧がない6-8時間の睡眠時間を基準としたとき、平日の睡眠が6時間未満の場合は、高血圧の有無(オッズ比=8.75、2.92)に関わらず心筋梗塞のリスクが有意に高かったが、休日については、高血圧がある短時間睡眠のみで有意にリスクが高かった(オッズ比=5.29)。また、脳卒中については、高血圧がある短時間睡眠のみ、平日(オッズ比=6.35)、休日(オッズ比=7.50)ともにリスクが高かった。睡眠負債(平日と休日の睡眠時間の差分値)は、心筋梗塞リスクと有意に関連したが(オッズ比=1.40)、脳卒中とは関連しなかった。

解説

本研究により、6~8時間睡眠と比較して、6時間未満の睡眠は、心筋梗塞と脳卒中のリスクと関連すること、これらの関連は高血圧者でより顕著であり、年齢および性別によって異なる傾向があることが示された。これまでも、睡眠時間と循環器疾患の関連はいくつか報告されてきたが、本研究は、平日と休日の睡眠時間、さらにその差分(睡眠負債)と脳・心臓疾患の関連性を、年代や性別、高血圧の有無で分類し、検討した点が長所として挙げられる。ただし、本研究は横断研究であり、因果関係までは言及できないため、今後同様の縦断研究が期待される。

池田 大樹(いけだ ひろき)
記事を書いた人

池田 大樹(いけだ ひろき)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の主任研究員で、現場介入チームと心血管系チームに所属。専門分野は睡眠学。質問紙による横断・縦断調査、睡眠計や疲労アプリを用いた観察調査、実験室実験などにより、過労死及びその防止に関する研究を、睡眠をメインとして実施している。