中国人医師の命を奪う過重労働: 2013年~2015年の中国における過労死のレビュー
出典論文
Shan HP, Yang XH, Zhan XL, Feng CC, Li YQ, Guo LL, Jin HM. Overwork is a silent killer of Chinese doctors: a review of Karoshi in China 2013-2015. Public Health. 2017 Jun;147(1): 98-100. doi: 10.1016/j.puhe.2017.02.014.
著者の所属機関
復旦大学浦東病院浦東医療センター腎臓内科等(中国、上海市に所在する国立大学)
内容
近年中国では、医師、大学教授、エンジニア、ブルーカラーの労働者などで過労死が発生しており深刻な問題となっている。また、中国では医師と患者との間で不信感だけでなく暴力にも及ぶような乏しい関係が急速に拡大している。そこで本研究では中国人医師の過労死の文献レビューを行い、医師の労働環境を改善する必要性について言及することとした。過労死の文献抽出は、中国語または英語にて公表されたローカルメディア、医療ウェブサイト、公文書、PubMed、Google Scholar、China National Knowledge Infrastructure、www.dxy.cnにて行った。検索語を“doctors' Karoshi”、“physicians' Karoshi”、“doctors' sudden death”、“physicians' sudden death”とし、検索年は2013~2015年とした。その結果、46件(内女性3件)の過労死が該当した。過労死数は経年増加しており、30~39歳の年齢層が最も多かった。また、突然死が生じた直前の勤務時間は8~12時間では半数以上であり、24時間以上では11件であった。診療科は麻酔科が最も多かった。その背景として、若・中年齢層における高い労働強度、不適切な医療資源の配分、心理社会的な仕事のストレス、医師自身のケア不足だけでなく低賃金や医療従事者の少なさも指摘できる。実際、医療資源の1つである人口1000人に対する医師数は、先進国の2.8人に比して中国では1.2人である。また、麻酔科の医師1人が年間に携わる患者数は中国では約1500人に対し先進国では約500~1000人であり、過労死が多く発生した原因の1つである可能性がある。さらに2003~2013年には深刻な医療暴力が101件発生し、このうち医師と看護師の死亡は24人であり、中国の医療スタッフは常に職場で危害を受けるリスクからストレスが増加する可能性がある。さらに、低賃金ということから医科大学の学生数や職業として医学を選択する人が減っている。このように、医師の過労死は医学的問題であると同時に社会的問題であり、過労死防止のためには政府が労働時間に関する法律の策定・施行をする必要性と国民が携わる医師スタッフとの理解と信頼を高める必要がある。
解説
本研究では、中国人医師の過労死の文献レビューから、中国人医師の過労死の背景を勤務時間数や低賃金、医師と患者との関係性等の面において労働環境を改善する必要性を指摘している。中国では勤務中の突然死、脳・心臓疾患を発症した事例をKaroshiと呼んでいる。本報告では、過労死の定義や具体的な疾患、認定要因等に関し記されていない点は考慮する必要があるが、東アジア地域において過労死への関心が高まっていることを示している。今後、過労死等の事案の収集、データの精緻化、検証等が東アジア地域等で実施されることが期待される。わが国においても「過労死等防止のための対策に関する大綱」で医療等は過労死等防止の重点業種であり、過労死等防止調査研究センターから見出された医師を含む医療・介護従事者の過労死等の実態と背景要因と比較検討も含め、労働環境等からの予防対策を今後も検討していく必要があるだろう。