模擬長時間労働時の正常血圧および未治療の高血圧男性間の血行力学的反応の比較

模擬長時間労働時の正常血圧および未治療の高血圧男性間の血行力学的反応の比較
目次

出典論文

Ikeda H, Liu X, Oyama F, Wakisaka K, Takahashi M. Comparison of Hemodynamic Responses between Normotensive and Untreated Hypertensive Men under Simulated Long Working Hours. Scand J Work Environ Health. 2018; 44(6): 622-630. doi:10.5271/sjweh.3752 PubMed PMID: 29982843

著者の所属機関

労働安全衛生総合研究所等

内容

本研究では、実験室で模擬長時間労働時(休憩を含む13時間)の正常血圧群(安静時収縮期血圧(SBP)≤140mmHgかつ拡張期血圧(DBP)≤90mmHg、21名、平均年齢49.2歳)、および未治療の高血圧群(SBP = 140-160 mmHgまたはDBP = 90-100 mmHg、13名、平均年齢51.9歳)の血行動態反応を調べた。正常血圧群と高血圧群の安静時(09:00-09:10、1回)およびPC作業中(09:10-22:00、12回)の血行動態反応を測定し、各作業中の値を安静時の値から差し引いた変化量を解析に用いて繰り返しのある二元配置分散分析を行った。主な結果として、両群とも収縮期血圧の変化量は作業時間とともに増加したが、正常群と比べ、高血圧群の増加量は作業の後半ほど有意に高かった。
血圧は概日周期を持ち、夜間に最も低く、覚醒前に上昇し始め、朝から昼にかけて最も高く、日中に緩やかに減少していく。このパターンは正常血圧者と高血圧者で変わらないことが報告されている。本研究において、血圧は模擬作業の後半で増加したことから、この血圧上昇は概日周期ではなく、長時間労働によるものであると考えられ、模擬長時間労働は心血管系の負担を増大することが示唆された。さらに、この模擬長時間労働は、特に高血圧者で作業中の収縮期血圧を上昇させた。これは長時間労働下にある労働者、特に高血圧を伴う者に心血管系負担が強く生じる可能性を示唆している。

解説

長時間労働は過労死(過重労働による脳・心臓疾患)のリスクファクターとして注目されてきた。国際的な疫学調査では、週55時間以上等の労働が冠動脈疾患や、脳卒中など心血管系疾病のリスクの増加と関連すること、また高血圧は心血管系疾病の危険因子であることが多く報告されている。しかし、これらの疫学調査では対象者の職業、生理的な特徴、職場環境、調査時の仕事内容など様々な影響が複合的に重なり、長時間労働に特化した影響を抽出することは難しい。本研究では、実験室実験を通じて、作業の環境、内容、時間(休憩時間を含む)などを統制した上で、一日に約12時間の作業を行う長時間労働が心血管系への負担を増大させることを明らかにした。本研究の結果から、長時間労働を避ける、血圧管理を行う、疲労から回復するための休息時間を確保するなどの対策が労働者全体、特に高血圧を伴う群に対しては必要と考えられる。

劉 欣欣(りゅう しんしん)
記事を書いた人

劉 欣欣(りゅう しんしん)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の上席研究員で、心血管系チームに所属。専門分野は人間工学、労働生理学。実験研究を担当しており、作業中の生理負担を解明、その負担の軽減策を検討。千葉大学工学研究科の産学官連携研究員を経て現職につく。