認知的疲労による脳機能の低下を補う前頭領域の活動

認知的疲労による脳機能の低下を補う前頭領域の活動
目次

出典論文

Wang, C., Trongnetrpunya, A., Samuel, I. B. H., Ding, M., & Kluger, B. M. (2016). Compensatory Neural Activity in Response to Cognitive Fatigue. The Journal of Neuroscience, 36(14), 3919?3924. doi:10.1523/JNEUROSCI.3652-15.2016

著者の所属機関

Wang C, Trongnetrpunya A, Samuel IBH, Ding M: J. Crayton Pruitt Family Department of Biomedical Engineering, University of Florida, Gainesville, Florida 32611
Kluger BM: Departments of Neurology and Psychiatry, University of Colorado Denver, Aurora, Colorado 80045

内容

高度の情報処理を要する作業課題を継続して行うと認知的疲労が引き起こされ、時間とともに作業パフォーマンスが低下する。本研究では、このパフォーマンス低下の前段階において、作業課題に関係する脳領域の機能低下がどのように補われるかについて、脳波を用いて検証することを目的とした。
本研究の実験では、160分間の認知的作業課題中における被験者の脳波を頭部に貼付された128箇所の電極から記録し、脳活動の部位ごとの経時変化を調べた。ほとんどの部位において脳活動は時間とともに単調に低下した一方で、前頭領域においては山なりの変化が認められた。より具体的には、この前頭領域の活動は作業課題開始から増加し60~100分の間にピークを迎えた。興味深いのは、「前頭領域の活動が活発であるほど作業パフォーマンスが良い」という関連性がこのピーク期間においてのみ示されたことである。ピーク以降は、前頭領域の活動低下に伴って作業パフォーマンスも低下した。これらの実験結果から、作業課題に関係する脳領域が疲労によって機能低下した際に、前頭領域がそれを補うように働いて作業パフォーマンスを一定時間維持することが分かった。しかし、作業課題が進み更に疲労が高まると、前頭領域の活動も低下して作業パフォーマンスが低下することが示された。

解説

パフォーマンスの低下を防ぐために脳活動が変化する事例は本研究の他にも報告がされている。例えば、運動疲労時に運動機能を保つものや、加齢や構造的変化が起こったときに認知機能を保つものが存在する。
脳機能を高度に使う作業が継続すると認知的疲労が生じるが、その生じやすさは個人や状況により異なる。認知的疲労の生じやすさについての神経学的な説明はこれまでなされていなかったが、本研究により前頭領域の活動が主に関係していることが示唆された。本研究で得られた知見は、いわゆる「頭の疲れやすさ」の個人差を理解すること、さらに疲労感に苦しめられる症状を治療する方法の開発に役立つと考えられる。