シフトワークとメンタルヘルス:系統的レビューとメタ分析

シフトワークとメンタルヘルス:系統的レビューとメタ分析
目次

出典論文

Zhao, Y, Richardson, A, Poyser, C, Butterworth, P, Strazdins, L, Leach, L.S. (2019). Shift work and mental health: a systematic review and meta-analysis. International Archives of Occupational and Environmental Health, 92, 763-793. doi: 10.1007/s00420-019-01434-3.

著者の所属機関

Zhao, Y, Richardson, A, Poyser, C, Butterworth, P, Strazdins, L, Leach, L.S.: National Centre for Epidemiology and Population Health (NCEPH), Research School of Population Health, The Australian National University, Canberra, 2601, Australia.
Poyser, C: Centre for Mental Health, Melbourne School of Population and Global Health, The University of Melbourne, Melbourne, Australia; Melbourne Institute of Applied Economic and Social Research, The University of Melbourne, Melbourne, Australia.

内容

高度の情報処理を要する作業課題を継続して行うと認知的疲労が引き起こされ、時間とともに作業パフォー
背景:シフトワークがメンタルヘルスへ与える影響については、さまざまな知見が混在している。この系統的レビューでは、様々なシフトワークの型とメンタルヘルスの関連を調べた先行研究を包括的にまとめる。このレビューでは特定の職業に特化しない大規模な研究を対象とする。
方法:4つの電子データベース(PubMed、PsychoINFO、Web of Science、SCOPUS)を利用して、住民を対象としてシフトワークとメンタルヘルスの関連を調べた研究を検索した。2人の検索者が研究の特徴やデータを抽出した。また、broad binary measure(2件法で大きくたずねる形式)でシフトワークを調べた縦断的研究についてメタ分析を実施した。
結果:33の研究が最終的に選択された。10研究が横断的デザイン、22研究が縦断的デザイン、1研究が両方のデザインを採用していた。結果は、シフトワークの項目の内容によって、(1)夜/夕方勤務、(2)週末勤務、(3)不規則勤務・予測不可能な勤務、(4)broad binary measure、にグループ化された。全体的にbroad binary measureを利用した場合、シフトワークはメンタルヘルスの悪さと関連しており、これはメタ分析によっても支持された。また、不規則勤務・予測不可能な勤務はメンタルヘルスの悪さと関連しているエヴィデンスが多く認められた。一方で、夜/夕方勤務や週末勤務ではそのようなエヴィデンスは少なかった。
考察:シフトワークとメンタルヘルスの関連は、シフトワークの型によって異なった。broad binary measureを利用した場合や、不規則勤務・予測不可能な勤務は、メンタルヘルスとの関連が強かった。シフトワークの一貫したわかりやすい測定項目を利用した研究を実施する必要性が示された。

解説

本研究は、職種や組織の特有のバイアスを避けて、包括的にシフトワークの影響を調べるために、特定の職業に特化しない大規模な集団を扱った研究について系統的レビューをしていることが特徴的な点である。特定の職業の労働者サンプルを対象とした研究には様々なバイアスがある。たとえば、シフトワークに合わない人(シフトワークによってメンタルヘルスが悪くなった人)は、比較的早期にその仕事を辞めてしまい、その結果、調査の対象となる集団に含まれないという傾向がある(生存者バイアス)。また、仕事の内容とシフトワークは密接に関連しており、その二つを厳密に切り離して、メンタルヘルスとの関連を調べることは難しい。そのようなバイアスを避けるために、特定の職業の労働者に限定しない大規模な集団を扱った研究のみを検討の対象とすることは一つの興味深い試みである。
医療福祉の分野では精神障害による労働災害の申請件数が多く、同時に、シフトワークも多い業態である。夜勤などのシフトワークが精神障害の発症に直接的、あるいは間接的に関わっているかは、まだわかっていないことも多い。不規則勤務・予測不可能なシフトワークの労働者ではメンタルヘルスが悪いという結果は、現場で対策を考える際にも重要な知見であると考えられる。考察の最後に書かれていたように、今後はシフトワークについて明確に定義をした上で研究を実施する必要がある。

井澤 修平(いざわ しゅうへい)
記事を書いた人

井澤 修平(いざわ しゅうへい)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の上席研究員で、専門分野は精神神経内分泌免疫学、産業保健心理学、産業ストレス。早稲田大学先端科学・健康医療融合研究機構などでの職歴を持つ。現場介入調査チームでバイオマーカーの部分を担当し、ストレスや過重労働の生理的な影響を、唾液、毛髪、爪に含まれるホルモンなどによって評価している。モットーは「才能とは努力を継続できる力である」。オフの時間はインドア派で、TVドラマを見たり、ゲームをしたり、本を読んだりして過ごす。