日本の小中学校教員における時間外労働と心理的ストレス反応との関連:大規模横断的研究

日本の小中学校教員における時間外労働と心理的ストレス反応との関連:大規模横断的研究
目次

出典論文

Furihata R et al. Association between working overtime and psychological stress reactions in elementary and junior high school teachers in Japan: a large-scale cross-sectional study. Ind Health. 2021 Oct. doi: 10.2486/indhealth.2021-0069.

著者の所属機関

東京大学大学院等

内容

日本(岐阜県)の小中学校の教員(校長、副校長・教頭、栄養教諭、養護教諭除いた、フルタイムで授業を教えている)6,135名(男性2,710名、女性3,409名、不明16名)を対象に、小中学校教員の時間外労働と心理的ストレス反応の関係を検討した。職業性ストレス簡易調査票(the Brief Job Stress Questionnaire:BJSQ※1)と時間外労働に関する質問紙を用いて、時間外労働(平日、休日、持ち帰り)と仕事内容(教育業務※2、周辺業務※3、教育・周辺業務両方)について評価した。3つの時間外労働は、いずれも強い心理的ストレス反応と統計的に有意に関連していた。平日と休日の時間外労働では、教育業務のみ行うのに比べて教育・周辺業務の両方を行うと、心理的ストレス反応はより高いことがわかった。教員の心理的ストレス反応を軽減するためには、時間外労働自体を減らすことが重要である。それに加えて、平日と休日の時間外労働は、仕事内容を限定することで心理的ストレス反応を抑制できる可能性がある。

※1 職業性ストレス簡易調査票(the Brief Job Stress Questionnaire:以下BJSQ)は、合計57項目構成され、項目は、仕事のストレス要因: 17項目、心理的ストレス反応:18項目、身体的症状:11項目、周囲のサポート:11項目である。評価方法は、心理的ストレス反応を例にすると4尺度(1ほとんどなかった、2ときどきあった、3しばしばあった、4ほとんどいつもあった)で評価され、18項目の合計スコアが高いほどストレス反応が強いことを示している。

※2 教育業務とは、生徒指導、授業計画と準備、補習や宿題に関する業務、テストの準備や生徒の成績評価、学校行事の準備、部活の指導などである。

※3 周辺業務とは、学校運営に関わる事務的業務、会議への参加、PTAなどである。

解説

2018年に報告されたOECD国際教員指導環境調査(TALIS:Teaching and Learning International Survey)では1)、参加48か国・地域の中で、教員1週間あたりの労働時間の合計は、参加国平均(中学校)38.3時間であるのに対し、日本の小学校は、54.4時間、中学校は56.0時間と参加国の中で最も長い労働時間であった。特に、教育業務の中学校の部活動の指導が7.5時間(参加国平均1.9時間)、周辺業務の事務業務が平均2.7時間に対して小学校が5.2時間、中学校が5.6時間と参加国平均を大きく上回っていた。既存の研究では、日本の教員の長時間労働によるメンタルヘルス不調は報告されている。しかし、平日・休日・持ち帰りといったどの時間外労働が教員のメンタルヘルス不調と関連しているかは明らかではなく、本論文はこの点について検討した研究である。その結果、平日・休日・持ち帰りの時間外労働すべてが、メンタルヘルス不調に影響を及ぼしていた。また、平日と休日の時間外労働における仕事内容では、教育・周辺業務両方行うことが教育業務のみ行うより心理的ストレス反応が高かった。時間外労働自体を減らすことが最も重要であるが、仕事内容を限定することも大切であることが本論文の新たな知見として得られたものである。今回、教育業務の範囲が、授業準備等から部活の指導等と広範囲であったため、より詳細な仕事内容のメンタルヘルスについての検討が望まれる。

*参考文献

1)文部科学省.OECD 国際教員指導環境調査(TALIS)2018報告書Vol.2のポイント.2020年3月23日登録.https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/data/Others/__icsFiles/afieldfile/2020/20200323_mxt_kouhou02_1349189_vol2.

茂木 伸之(もてぎ のぶゆき)
記事を書いた人

茂木 伸之(もてぎ のぶゆき)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の研究員で、事案研究班に所属。専門分野は人間工学、労働科学、産業人間工学。道路貨物運送業の精神障害事案の分析と地方公務員の過労死等の公務災害認定事案の調査研究も担当。主要な職歴としては、公益財団法人大原記念労働科学研究所の特別研究員、武蔵野大学通信教育部の非常勤講師、武蔵野大学人間科学部の非常勤講師、千葉工業大学社会システム科学部の非常勤講師などがある。オフの時間の楽しみ方は千葉ジェッツと千葉ロッテマリーンズの応援。