精神障害の労災認定要件を満たす業務負荷は性別・業種で大きく異なる

精神障害の労災認定要件を満たす業務負荷は性別・業種で大きく異なる
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【159】精神障害の労災認定要件を満たす業務負荷は性別・業種で大きく異なる精神障害を引き起こす要因は、業種によって異なる

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この研究から分かった事

・精神障害(自殺を含む)の労災認定事案において、認定要件を満たす業務負荷の分布は性別・業種で大きく異なる。

・男性事案では、情報通信業や宿泊・飲食業などを中心に「長時間労働関連の出来事」による労災認定が多く、この傾向は自殺事案に限定すると一層顕著である。

・一方、女性事案では「長時間労働関連の出来事」による労災認定は相対的に少なく、「事故・災害関連の出来事」「対人関係関連の出来事」による認定が多い傾向が見受けられる。

目的

精神障害(自殺を含む)で労災認定された全事案について、性別、業種及び労災認定要件を満たす業務負荷別の実態を把握する。

方法

2010年1月~2015年3月の精神障害の労災認定事案のうち、2011年改正の基準で認定された1,362件について、性別、業種及び業務負荷別の分析を行った。

結果

男性事案の55.7%は「長時間労働関連の出来事」に該当し、この傾向は自殺事案でより顕著であった。「長時間労働関連の出来事」とともに、「事故・災害関連の出来事」「対人関係関連の出来事」などへの該当状況も性別及び業種により大きく異なっていた。

考察

労災認定要件を満たす業務負荷は性別・業種で大きく異なることから、業務に起因する精神障害・自殺の予防においては、業種の特性や長時間労働以外の要因も考慮した対策が必要であることが示唆された。

キーワード

精神障害、自殺、労災認定、業種、長時間労働

出典

Yamauchi T, Sasaki T, Yoshikawa T, Matsumoto S, Takahashi M, Suka M, Yanagisawa H. Differences in work-related adverse events by sex and industry in cases involving compensation for mental disorders and suicide in Japan from 2010 to 2014. Journal of Occupational and Environmental Medicine. 2018;60:e178-82. 
https://doi.org/10.1097/JOM.0000000000001283

山内 貴史(やまうち たかし)
記事を書いた人

山内 貴史(やまうち たかし)

東京慈恵会医科大学医学部 環境保健医学講座 准教授。 専門は疫学(産業疫学、精神保健疫学)。 2004年早稲田大学人間科学部卒業、2010年東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻博士課程修了。 国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所自殺予防総合対策センター、労働安全衛生総合研究所過労死等防止調査研究センターを経て、2017年に東京慈恵会医科大学助教。2019年に同講師、2021年より現職。 受賞歴として、日本衛生学会奨励賞など。 日本疫学会疫学専門家、日本自殺予防学会評議員・編集委員会委員、日本産業衛生学会関東地方会幹事、内閣府自殺関連統計マニュアル検討会座長、川崎市自殺対策評価委員会委員などを歴任。