過労自殺事案における長時間労働のパターンと職場での出来事について

過労自殺事案における長時間労働のパターンと職場での出来事について
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過労自殺事案の長時間労働パターンを客観的な方法で分類する試み過労自殺事案の長時間労働パターンを客観的な方法で分類する試み

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この研究から分かった事

  • 過労自殺者の時間外労働を初めて客観的な方法で分類したところ、慢性的な長時間労働だけでなく、精神障害発症前に時間外労働が急増する例などいくつかのパターンに分類することができた。
  • 一言で長時間労働といってもその推移は被災者ごとに様々であったため、長時間労働とメンタルヘルスの関連を考える際には、働く時間の長さだけでなく変化にもより注目する必要があると考えられる。
  • 長時間労働がない例では、対人関係のトラブルによって自殺に至る例が多かったため、職場における対人関係の問題にも引き続き取り組む必要がある

目的

仕事に関連するさまざまな要因が労働者のメンタルヘルスに影響を及ぼしていることが知られているが、長時間労働と精神障害の関係性はまだ明らかでない部分がある。この研究では、日本において労災として補償された過労自殺事例を調査し、その関係性を実証的に明らかにすることを目的とした。

方法

業務によって精神障害を発症し、自殺に至ってしまった167件の事例(2015-2016年度に認定された全件)を分析した。特に、時間外労働の履歴に対しては階層的クラスタリング分析により客観的な分類を行った。また、仕事に関連する問題の質的な側面も認定基準に基づいて評価した。

結果

半数以上の事例が精神障害を発症してからわずか1か月以内に自殺していた。特に、管理職や専門職、エンジニア職の労働者は自殺率が高い傾向にあった。慢性的な長時間労働(19%)だけでなく、徐々に増加する時間外労働(27%)や急激に増加する時間外労働(25%)といったパターンが存在することが分かった。また、時間外労働が少ない事例では、対人関係の問題がより頻繁に発生していた。

考察

この研究は、自殺の背後にある実際の労働パターンを客観的に明らかにするために機械学習の手法を初めて活用したものである。精神障害の発症前の時間外労働パターンは、事例間で大きく異なった。今後は時間外労働の変遷を考慮に入れることで、長時間労働と労働者のメンタルヘルスとの関係をより明確に理解する手助けとなると考えられる。
更に、これらの結果は特に慢性的な過労、労働時間の急増、対人関係の問題に対する対策が、過労自殺防止には必要であることを示唆してる。

キーワード

過労自殺,長時間労働, 事案研究班、メンタルヘルス

出典

Nishimura Y, Yamauchi T, Sasaki T, Yoshikawa T, Takahashi M. Overtime working patterns and adverse events in work-related suicide cases: hierarchical cluster analysis of national compensation data in Japan (fiscal year 2015-2016). Int Arch Occup Environ Health. 2022 May;95(4):887-895. doi: 10.1007/s00420-021-01760-5. 

https://link.springer.com/article/10.1007/s00420-021-01760-5

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西村 悠貴(にしむら ゆうき)
記事を書いた人

西村 悠貴(にしむら ゆうき)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)では、現場介入調査班と循環器班に所属。専門分野は生理人類学・生理心理学。脳波などの生理指標を扱う実験系の専門性を生かして、夜勤・交代制勤務、長時間労働(運転)などに関する各種実験に関わっている。また、過労自殺事案の解析も担当していた。研究者になったきっかけは、ヒトがお互いに影響を与える背景や仕組みに興味を持っていたからである。オフの時は、自宅に小さなLinuxサーバーをおいて、おうちDXを目指して遊んで過ごしている。