長時間労働と脳・心臓疾患との関連についてのシスマティックレビュー
出典論文
Kivimäki M, Jokela M, Nyberg ST, et al. Long working hours and risk of coronary heart disease and stroke: a systematic review and meta-analysis of published and unpublished data for 603838 individuals. Lancet. 2015; 386: 1739-1746. doi: 10.1016/S0140-6736(15)60295-1. Epub 2015 Aug 19. PMID: 26298822.
著者の所属機関
Department of Epidemiology and Public Health, University College London, London, UK.
内容
本研究はヨーロッパ、アメリカ、オストラリアの24件のコホート研究に基づいて、長時間労働と脳・心臓疾患の関連を分析した。計603,838人の対象者を約8.5年間追跡した結果、4,768人に冠動脈疾患が発症した。計528,908人を約7.2年追跡した結果,1,722人に脳卒中が発症した。全ての対象者は追跡開始時に冠動脈疾患及び脳卒中の持病はなかった。年齢、性別、社会経済地位などを調整した上でメタ分析を行った結果、週労働時間は35-40時間の対照群と比べて、週労働時間が55時間以上の長時間労働者群の冠動脈疾患(relative risk[RR]: 1.13, 95%CI: 1.02-1.26, p=0.02)と脳卒中(relative risk [RR]: 1.33, 95%CI: 1.11-1.61, p=0.002)の発症率はそれぞれ1.13倍と1.33倍に増加した。特に脳卒中は対照群と比べて、週41-48時間労働の場合は1.10倍、週49-54時間労働の場合は1.27倍、週55時間労働の場合は1.33倍の発症率の増加が認められ、労働時間が長くなるほど脳卒中の発症リスクが高くなることが示された。
解説
長時間労働の健康への影響は世界中から研究され、過労死(脳・心臓疾患)の誘因としても注目されてきた。長時間労働が健康問題を引き起こす過程には、労働時間以外に、他の仕事の負担要因、疲労回復時間の減少などの要因が複雑に絡んでいると考えられる。本論文は複数国の研究データを用いて総合的に分析した結果、週労働時間が55時間以上の長時間労働(労基法で週40時間労働となっている日本の基準に合わせると、月当たり約60時間の時間外労働)が脳・心臓疾患の増加との関連があることを科学的に立証した点に注目すべきである。また、脳疾患が心臓疾患より長時間労働による影響を受けやすい点も重要な知見である。上述したように脳・心臓疾患リスクの増加は労働時間以外の要因の影響も否定できないが、長時間労働が仕事負荷の増加、疲労回復時間の減少と直結しているため、その影響は大きいと予想される。