自己報告による業務中の身体活動量と心肺持久力との関係について:循環器疾患と総死亡率の重要性

自己報告による業務中の身体活動量と心肺持久力との関係について:循環器疾患と総死亡率の重要性
目次

出典論文

Holtermann A et al. Self-reported occupational physical activity and cardiorespiratory fitness: Importance for cardiovascular disease and all-cause mortality. Scand J Work Environ Health. doi: 10.5271/sjweh.3563. [Epub ahead of print] PubMed PMID: 27100403.

著者の所属機関

National Research Centre for the Working Environment, Denmark(デンマーク国立労働環境研究センター)

内容

1北欧デンマーク・コペンハーゲンの住民を対象とした循環器疾患に関する長期コホート研究(Copenhagen City Heart Study)からの報告である。1991年から1994年の間に登録された10,135人のうち、ベースライン調査時の年齢が20-67歳で、循環器疾患の既往歴がなく、勤務中の身体活動量(occupational physical activity:OPA)と心肺持久力の回答のデータが得られた男性2,190人、女性2,534人が対象とされた。追跡期間(中央値)は18.5年であり、期間中の全死亡852名のうち257名が循環器疾患により死亡した。循環器疾患による死亡のリスクを年齢、性、喫煙状況、体格、糖尿病の有無、収入、飲酒状況、余暇身体活動で調整し、コックス比例ハザード回帰分析により算出した。その結果、自己報告による心肺持久力が低い者は高い者より2.17倍(95%CI: 1.40-3.38)、OPAが高い者は少ない者より1.45倍(1.05-2.00)循環器疾患による死亡リスクが高まることが分かった。さらにOPAと心肺持久力のデータを統合した分析では、OPAが高く、心肺持久力が低い者は、OPAが低く心肺持久力が高い者より死亡リスクが6.22(2.67-14.49)倍高まることが分かった。

解説

本研究は質の高いコホート研究からの報告であり、労働者の身体的負荷と疾病発症リスクとの関係を明らかにした点で重要である。一方、勤務中の身体的負荷と疾患との関係については、本研究のように身体活動量が多い(身体的負荷が高い)ことをリスクとする報告がある一方で、身体的負荷が低い(座位時間が多い)ことをリスクとする報告も少なくなく、やや混沌とした状況である。この点については労働者の身体活動量の評価方法に課題があるとされている。本研究でもOPAは4択、心肺持久力は3択から構成される単一の質問で評価されており、論文内でもこの点を研究の限界としている。労働者の身体活動量と疾患リスクとの関係を検討する今後の疫学調査に向けては、質問紙の信頼性、妥当性を高めることが課題となっている。

蘇 リナ(そ りな)
記事を書いた人

蘇 リナ(そ りな)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の主任研究員で、体力科学班に所属。専門分野はスポーツ医学、体力医学、労働衛生。労働者の体力(身体的体力や精神的体力)および身体活動に着目した疫学調査・介入研究を行っている。主要な職歴としては、筑波大学スポーツ医学専攻のティーチングアシスタント、茨城県結城市結城看護専門学校の非常勤講師、日本学術振興会の特別研究員など。研究者になったきっかけは、大学院での研究を通じて、自分の研究が社会に貢献できると感じたから。