流産と職業活動:交代勤務、労働時間、持ち上げ作業、立ち作業、身体的労働負荷についてのシステマティック・レビューとメタ分析

流産と職業活動:交代勤務、労働時間、持ち上げ作業、立ち作業、身体的労働負荷についてのシステマティック・レビューとメタ分析
目次

出典論文

Bonde JP et al. Miscarriage and occupational activity: a systematic review and meta-analysis regarding shift work, working hours, lifting, standing, and physical workload. Scand J Work Environ Health. 2013 Jul;39(4):325-34. PMID: 23235838.

著者の所属機関

コペンハーゲン大学ビスペビヤ病院等

内容

先行研究において、交代勤務、長時間労働、持ち上げ作業、立ち作業、身体的労働負荷が流産のリスクを高めるという報告はあるが、明確な証拠は示されていない。そこで、システマティック・レビュー(文献調査)を行った。方法は、2つの文献データベースで1966年から2012年まで検索し、上記の5つのうち1つ以上の職業活動と流産との相対リスク(RR)を報告している30論文を選び出し、統合したRRを算出した。結果は、常夜勤は流産のリスク増加と関連していた(RR 1.51 [95%信頼区間(95%CI)1.27~ 1.78]、5論文)。一方、三交代勤務、週40~ 52時間労働、1日に100kg超の持ち上げ作業、1日に6~ 8時間以上の立ち作業、身体的労働負荷と流産とのRRは1.12(3交代勤務、7論文)~ 1.36(労働時間、10論文)と、リスクの増加は小さく、質の高い研究に限定した場合、労働時間と立ち作業のRRは更に減少した。結論として、選出された研究結果からも流産に関連する職業活動についての有力な証拠は見出されなかった。しかし、証拠は限られているものの、妊娠している女性で、かつ上記5つの職業活動(三交代勤務、週40~ 52時間労働、1日に100kg超の持ち上げ作業、1日に6~ 8時間以上の立ち作業、身体的労働負荷)に従事する者には流産のリスクについて個別のカウンセリングなどの配慮が重要であろう。

解説

アブストラクトに詳細な記載はないが、労働時間と流産についての10論文を統合したRR:1.36の95%CIは1.25~ 1.49と統計学的には有意な関連性があると見なされるが、質の高い3論文に限定するとRR:1.17、95%CI:0.80~ 1.71と有意な関連性が認められなくなった。この結果から、著者らは有力な証拠は見出されなかったと、その結果に慎重な評価を下したと思われる。なお、労働時間についての10論文の調査対象国はアメリカ合衆国が7論文、カナダ、オーストラリア、韓国が各々1論文、調査期間は最も古いものが1982~ 84年、最も新しいものが2003年であった。流産と職業活動の関連性については、地域や人種差などの影響も考えられるため、今後、それらの違いも検討可能な調査研究の結果の集積が待たれる。

佐々木 毅(ささき たけし)
記事を書いた人

佐々木 毅(ささき たけし)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の部長で、事案研究班とコホート研究班に所属。専門分野は職業疫学と精神保健疫学。事案研究では過労死等事案研究の元となるデータベースの構築を担当し、疫学研究ではJNIOSH職域コホート研究に従事している。研究者になったきっかけは単純に、研究者になりたかったから、何らかの真実を追及してみたかったから。また、仕事のオンオフを大切にしており、オフの時間は音楽を聴いたり、読書をしたり、あるいはあえて「何もしない」時間を過ごすことを楽しんでいる。