週55時間以上働く労働者は心房細動が起こりやすい

週55時間以上働く労働者は心房細動が起こりやすい
目次

出典論文

Long working hours as a risk factor for atrial fibrillation: a multi-cohort study. Eur Heart J. 2017 doi:10.1093/eurheartj/ehx324.

著者の所属機関

英国ロンドン大学等

内容

心房細動は不整脈の一つで、心臓が速く不規則に拍動するため、全身に血液を送り出す働きが悪くなる病気である。心房細動によって心臓の中で血液がよどむと、「血の塊」(血栓)ができやすくなる。この血栓が脳に運ばれて脳の血管が詰まると脳梗塞になる。英国、デンマーク、スウェーデン、フィンランドの労働者のべ85,494名(うち女性55,915名、平均43才、心房細動なし)を約10年間追跡調査し、労働時間と心房細動との関連を調べた。追跡期間中に合計1,061名が心房細動を発症した。性別、年齢、社会経済状態による影響を統計的に調整した解析によると、週35-40時間働く群に比べて、週35時間未満群11%、週41-48時間群2%、週49-54時間群17%、週55時間以上群42%(P<0.01)ほど、心房細動が起こりやすかった。喫煙、体格指数、飲酒、身体活動、慢性疾患の有無等の影響を調整しても、週55時間以上群では心房細動は同じく40%程度、起こりやすいことが分かった。

解説

同じ研究グループは2015年に「週55時間以上働く労働者は脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)になりやすい」ことを報告しており、その原因の一つとして心房細動に着目したと思われる。膨大なデータから明らかにされた今回の知見は重要ではあるが、いくつかの疑問に答える必要がある。労働時間は初回調査時の申告値を利用しているので、その後10数年間に渡ってどのくらい変化したかは分からない。労働時間以外の要因として、勤務体制や職種などによる影響は調べていない。幾多の限界はあるにしても、長時間労働に伴う健康障害を定量化しようとする努力は価値がある。

高橋 正也(たかはし まさや)
記事を書いた人

高橋 正也(たかはし まさや)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)のセンター長で、専門分野は産業睡眠医学。過労死等研究では、各班の研究を支援しつつ、研究代表として全体を統括。研究者としてのキャリアは、労働省産業医学総合研究所の研究員から始まり、その後、米国ハーバード大学医学部ブリガム・アンド・ウィメンズ病院・睡眠医学科の博士研究員を経て、現在の地位に至る。睡眠、生体リズム、勤務スケジュール、職場の心理社会的環境、過重労働が研究テーマ。また、仕事とプライベートのオンオフのバランスを重視しており、オフの時間は家族と過ごすことを楽しみにしている。