労働時間と心血管疾患リスクの用量反応関係

労働時間と心血管疾患リスクの用量反応関係
目次

出典論文

Conway et al. Dose-Response Relation Between Work Hours and Cardiovascular Disease Risk: Findings From the Panel Study of Income Dynamics. J Occup Environ Med. 2016; 58(3):221-6.

著者の所属機関

The University of Texas Health Science Center, School of Public Health, Houston(テキサス大学)

内容

本研究の目的は、アメリカの代表的なパネル調査における労働時間と心血管疾患(CVD)の用量反応関係を調べることである。
方法:所得動向のパネル調査(PSID: the Panel Study of Income Dynamics、1986年から2011年)の1,926人を少なくとも10年間さかのぼった後ろ向きコホート研究を行った。制限3次スプライン回帰により、労働時間とCVDの用量反応関係を推定した。
結果:少なくとも10年間の平均週労働46時間以上がCVDのリスク増加と関連した用量反応関係が観察された。1週間に45時間働く場合と比較して、週10時間以上をさらに10年間続けることで、CVDリスクが少なくとも16%増加した。
結論:少なくとも10年間、週に45時間を超えて働くことは、CVDの独立した危険因子である可能性がある(訳者注:統計的有意差が認められるのは週労働55時間からである→解説参照)。

解説

アメリカの大規模パネル調査(同じ調査対象に対して一定期間に繰り返しアンケートを行う調査)を利用した長時間労働と心血管疾患(CVD)との関連を検討した報告である。本論文で用いたのは所得動向に関するパネル調査で、全体では9,000家族、22,000人以上が参加しており、1986年(ベースライン時)から2011年に18歳以上であること等を条件に調査対象を絞って最終的に1,926人の労働者が分析対象となった。結論では週労働45時間超(46時間以上)でCVDの増加と記載されており、これまでの報告より更に短い労働時間でのCVDとの関連が見出されたかと思われたが、論文中の表では週労働50時間では相対危険度(RR):1.03で統計的有意差は認められず、週労働55時間からRR:1.16で有意差が認められ週労働75時間でRR: 2.03で最大であり、週労働55時間が本論文のメルクマールであり、これまでの報告と大きな違いはないことに注意する必要がある。この研究の限界は、雇用形態が自営か否か、産業(業種)がサービス業か否か、職種が肉体労働か否か、といった職業要因しか押さえられていないことである。最近の労働時間の健康影響の調査研究では、職業要因として交代制勤務、深夜勤務、職場での人間関係等、生活習慣として睡眠や休息等といった要因が考慮されていることが多い。そのような限界はあるものの、2,000名弱の労働者を後ろ向きとはいえ10年という長きに渡って追跡した結果としてその学術的価値は十分にあると思われる。


佐々木 毅(ささき たけし)
記事を書いた人

佐々木 毅(ささき たけし)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の部長で、事案研究班と職域コホートチームに所属。専門分野は職業疫学と精神保健疫学。事案研究では過労死等事案研究の元となるデータベースの構築を担当し、疫学研究ではJNIOSH職域コホート研究に従事している。研究者になったきっかけは単純に、研究者になりたかったから、何らかの真実を追及してみたかったから。また、仕事のオンオフを大切にしており、オフの時間は音楽を聴いたり、読書をしたり、あるいはあえて「何もしない」時間を過ごすことを楽しんでいる。