労働者の座位行動の評価方法(松尾ら., 産業衛生学雑誌 2017)

労働者の座位行動の評価方法(松尾ら., 産業衛生学雑誌 2017)
目次

出典論文

松尾知明、蘇リナ、笹井浩行、大河原一憲.産業衛生学雑誌. doi: 10.1539/sangyoeisei.17-018-B. Vol.59 (2017), No. 6 pp. 219-228.

著者の所属機関

(独)労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所

内容

質問紙「労働者生活行動時間調査票(Worker’s Living Activity-time Questionnaire)(JNIOSH-WLAQ)」の信頼性と妥当性を検証した論文である。WLAQは座位時間評価を主な目的とした10項目で構成された質問紙であり、WLAQにより、一般的な労働者の生活を想定し分類された4つの時間区分(勤務中、通勤中、勤務日の余暇時間、休日)の座位時間が算出される。また、WLAQでは各座位時間を求める過程で、勤務時間、通勤時間、勤務間インターバル(daily rest period: DRP)、睡眠時間が算出されるため、本研究では、それらの生活活動時間の信頼性と妥当性も検証している。対象者は、週当たりの勤務日数が3日以上である労働者男女138名である。座位時間の妥当基準には身体活動量計(activPAL)が、勤務時間、通勤時間、DRP、睡眠時間の妥当基準には、対象者が1週間記録した日誌が使われた。分析では、級内相関係数(intraclass correlation coefficients:ICC)により信頼性を、順位相関係数(Spearman’s p)により妥当性を検討している。その結果、信頼性については、勤務時間、通勤時間、勤務間インターバル、睡眠時間、座位時間全てにおいて良好な(0.72-0.98)ICC値が得られ、妥当性については、勤務時間(0.80)とDRP(0.83)が“強い”、通勤時間(0.96)が“とても強い”、睡眠時間が勤務日(0.69)、休日(0.53)ともに“中程度な”、座位時間は、勤務中(0.67)と勤務日の余暇時間(0.59)が“中程度な”、通勤中(0.82)が“強い”、休日(0.40)が“弱い” p値であったことが示されている。これらの結果をもって筆者らは、WLAQが一定水準にあり、疫学調査などでの活用が期待できる質問紙だと結論づけている。

解説

質問紙評価を目的とした研究では、本研究のように、再検査信頼性(同一の対象者による回答の一致度)と基準関連妥当性(基準とされる評価方法で得られた数値との一致度)が検証される場合が多い。activPALは座位時間の測定機器として精度が最も高いとされる身体活動量計である。本研究の主な成果は、WLAQによる座位時間の妥当性をactivPALによる座位時間を基準とし示したことである。一方、WLAQでは座位時間算出の過程で勤務時間やDRP、睡眠時間が算出される。最近は、労働者の働き方が議論される中で、勤務時間やDRPが重要なキーワードとなっていることを考えると、質問紙で得られるこれらの数値の妥当性が検証されたことは重要である。また、労働者を対象とした疫学調査では、勤務時間をいかに評価するかが課題とされる。出退勤時刻が打刻されたタイムカードを使うなど、客観的指標が用いられることが望ましいが、実際にはそのような資料を企業から入手することは難しい場合が多い。そのため質問紙が使わることになるがその妥当性を検証した論文は少ないため、本研究はそのような観点からも貴重なデータである。他方、本研究では、対象者自らが記録した日誌から得た数値を勤務時間等の妥当基準として用いている。そのため妥当性評価に客観性が欠ける面があることが課題である。


蘇 リナ(そ りな)
記事を書いた人

蘇 リナ(そ りな)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の主任研究員で、体力科学チームに所属。専門分野はスポーツ医学、体力医学、労働衛生。労働者の体力(身体的体力や精神的体力)および身体活動に着目した疫学調査・介入研究を行っている。主要な職歴としては、筑波大学スポーツ医学専攻のティーチングアシスタント、茨城県結城市結城看護専門学校の非常勤講師、日本学術振興会の特別研究員など。研究者になったきっかけは、大学院での研究を通じて、自分の研究が社会に貢献できると感じたから。