終業後の仕事のポジティブな振り返りと翌日のワーク・エンゲイジメント:媒介メカニズムと循環プロセスの検証

終業後の仕事のポジティブな振り返りと翌日のワーク・エンゲイジメント:媒介メカニズムと循環プロセスの検証
目次

出典論文

Sonnentag et al. Positive work reflection during the evening and next‐day work engagement: Testing mediating mechanisms and cyclical processes. J. Occup. Organ. Psychol. 2021 June; https://doi.org/10.1111/joop.12362

著者の所属機関

University of Mannheim, Germany

内容

本研究では、終業後の余暇時間に仕事をポジティブに(前向きに、肯定的に)振り返ることが、就寝時や翌朝の心理面の恩恵だけでなく、翌日の日中にも持続するかどうかを検証した。具体的には、終業後の仕事のポジティブな振り返りと翌日のワーク・エンゲイジメントとの関連と、その間連を他の要素が仲介するメカニズムを検証した。西オーストラリアの自治体職員152名の1週間の調査データ(延べ687日)に基づき、仕事のポジティブな振り返りが、翌日午前の知覚された仕事の意味深さ、心理的余裕、翌日の同僚のサポートを予測することを明らかにした。また、知覚された仕事の意味深さと同僚のサポートは、その後のワーク・エンゲイジメントを予測した。逆に、ワーク・エンゲイジメントは、その後の仕事のポジティブな振り返りを予測した。本研究は、余暇時間に仕事に関連する問題をポジティブに考えることが、翌日の仕事での良い結果につながり、それがその後の仕事のポジティブな振り返りを促すという好循環の存在を示唆している。 終業後は、仕事から心理的に完全に距離を取るのではなく、一日の仕事をポジティブに振り返ることを奨励すべきである。日中のワーク・エンゲイジメントが高いと、終業後に仕事をポジティブに振り返ることができ、その結果、翌日も、活力と情熱に満ちた状態で仕事に没頭することができると思われる。仕事の意義を自覚し、同僚のサポートを受けることは、仕事のポジティブな振り返りをワーク・エンゲイジメントの促進につなげるのに有効である。つまり、仕事の意義を強調する心理的なエクササイズや、同僚のサポートを促進する活動は、ワーク・エンゲイジメントを高めるための有効な手段になりうる。

解説

仕事以外の時間に仕事から物理的・心理的に距離を取ることが、疲労から回復し、慢性的なストレスやメンタル不調を予防するために重要ということは広く知られている。しかし、仕事についてポジティブに考えることの効果は、短期的にしか検討されていなかった。また、疲弊している時こそ、回復のために必要な運動や睡眠を十分に行うことができないという回復のパラドックスの存在も指摘されており(Sonnentag, 2018)、仕事によって消耗したエネルギーを回復させる方法の解明が研究課題となっている。本研究は終業後に仕事についてポジティブに振り返ること(例えば、自分の仕事の好きな面に気づく、自分の仕事の良い面を思い浮かべる、自分の仕事の良い面について考える)が、翌日の働き方に良い影響を与えることを示しており、このような方法に回復のパラドックスを打破する効果があることが期待される。

木内 敬太(きうち けいた)
記事を書いた人

木内 敬太(きうち けいた)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の任期付研究員で、現場介入調査班と事案研究班に所属。専門分野は産業保健心理学、コーチング心理学、キャリアコンサルティング。主要な職歴として、心理カウンセラー、スクールカウンセラー(仙台市、宮城県、埼玉県)、高崎商科大学の非常勤講師、人間総合科学大学の助教など。座右の銘は、「取捨選択しない」。オフの時間は家族と過ごし、子供たちとの時間を楽しんでいる。