45歳以上の副業・兼業従事者のグループ分けとグループ間の健康の差異

45歳以上の副業・兼業従事者のグループ分けとグループ間の健康の差異
目次

出典論文

Bouwhuis et al. Distinguishing groups and exploring health differences among multiple job holders aged 45 years and older. Int Arch Occup Environ Health 2019; 92(1): 67-79.

著者の所属機関

アムステルダム大学医療センター、オランダ

内容

目的:近年、フルタイムで安定した標準的な雇用関係(standard employment relation; SER)ではない雇用(non-SER)が各国で増加しており、non-SERによる健康へのネガティブな影響が研究課題になっている。non-SERの下で働く人々の例として、複数の仕事(副業・兼業)を持つ人(Multiple job holders; 以下MJHとする)が、特にヨーロッパの北西の各国(アイスランド、北欧各国、オランダ)で増加している。MJHであることが健康に及ぼす影響は明らかにされていない。本研究は、オランダのMJHを、背景や特性が異なるグループに分類し、グループ間の心身の健康の違いを探索したものである。
方法: 45~64歳の人々を対象にし、雇用、生産性、およびモティベーションの動向を調査するオランダのコホート研究(STRAM; Study on Transitions in Employment, Ability and Motivation, 2010~2013年)の対象者から、MJH(N = 702)を選んだ。MJHの背景と特性は、複数の仕事をする理由、満足度、仕事の特徴、仕事や生活を変えることができるかどうか、社会的要因、および経済的要因の各領域を含む質問紙で調査し、グループを同定するために潜在クラス分析を適用した。心身の健康を評価する尺度であるSF-12®(12 Short Form Health Survay ; 健康関連QOL尺度の短縮版12項目)の結果とグループの関連を直線回帰分析によって横断的および縦断的(1年間のフォローアップ)に検討した。
結果: 潜在クラス分析の結果、MJHは以下の4つのグループに同定された。(1)脆弱なグループ(n=145)、(2) 無頓着グループ(n=134)、(3)満足・ハイブリッドグループ(n=310)、(4)満足・コンビネーショングループ(n=113)。(1)は、仕事は一つの方が良いと思っていて、高いデマンドと低いリソースの仕事をしている、(2)は複数の仕事を持つことによる利益も不利益も経験していない。満足度の高い群は2つに分類され、(3)は全員の第2の仕事が自営である場合、(4)は全員が雇用されている第2の仕事を持っている場合であった。(3)と(4)の双方とも、複数の仕事を持つことを好み、それによる利益を経験していた。ベースラインにおいて、(1)の脆弱グループは他のグループよりも統計的に有意に低い健康状態であった。1年後の健康の変化に関しては、いずれのグループにおいても有意な差は見出されなかった。
結論:MJHは4グループに区別できた。脆弱グループはベースラインにおいて他の3つのグループと比較してより低い健康状態であった。脆弱グループを支援する政策と介入が必要であろう。今後の研究では複数の仕事を持つ人たちの多様性を考慮することが推奨される。

解説

副業・兼業は日本において許容・推奨される動向であるが、長時間労働や休息不足をもたらす可能性もあり、企業等による適切な管理方法が行政で検討されている1)。厚労省のガイドラインでは条件によって全ての勤務先を通算した労働時間への配慮が推奨され、過労死等の認定基準においても通算した労働時間が適用されることになった。副業・兼業が労働者の健康に及ぼす影響に関しては、現在までの学術研究において結論は得られていない。MJHの安全と健康に関する実証的な研究は、この研究以外にも少数ながら欧州を中心に実施されてきた。副業・兼業の健康影響に関連するリスクとして、睡眠時間の短縮2)、事故の増加3)等の報告もある。副業・兼業は、条件によっては長時間労働や休息不足に結びつく可能性がある。副業・兼業への従事が労働者の安全と健康に及ぼす影響の実態把握に基づいた管理や行政の規制の在り方の検討を継続する必要がある。
副業・兼業は背景が多様であるために、その健康影響の有無および介入の必要性に関する明確な結論を得るのが難しいことは容易に推測できる。たとえば、安定した雇用や経済的余裕のある条件下で追加的な収入源、あるいは新しいキャリアの開発のために副業・兼業を持つ人と、不安定な雇用や貧困が背景にあって、複数の仕事を掛け持ちしなければ生活ができない人では、その実態や健康・安全への影響がまったく異なることは想像に難くない。Bouwhuisらの研究は、おそらくこうした背景の違いを取り上げた定量的で実証的な最初の研究であり、45歳以上のオランダのMJHにおいて、背景や条件が異なるために健康状態も異なるグループがあることが示された。この研究においても、MJHのグループの種類やその背景条件が十分に網羅・同定されているか、日本の実情にどの程度適合しているかは明らかではない。しかし、この研究結果から、少なくともこの問題のさらなる検討と対策においては、正規・非正規雇用労働者、副業許可有無など多様な条件の労働者を管理する企業が各労働者に対して実施すべき対策、MJHのリスクに関する労働者への啓発、自営業の安全衛生、雇用と収入の安定に関する政策などの複数の領域の問題が関わってくると思われる。

*参考文献

1) 厚生労働省 副業・兼業の促進に関するガイドライン. 平成 30 年1月策定 、令和2年9月改定.
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000192844.pdf(2021年12月22日閲覧)

2) Marucci-Wellman HR, Lombardi DA, Willetts JL Working multiple jobs over a day or a week: Short-term effects on sleep duration. Chronobiology International, 2016, Vol. 33(6), 630-649.

3) Marucci-Wellman HR, Willetts JL, Lin TC, Brennan MJ, Verma SK Work in multiple jobs and the risk of injury in the US working population. Am J Public Health, 2014, Vol.104(1):134-42.

鈴木 一弥(すずき かずや)
記事を書いた人

鈴木 一弥(すずき かずや)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の研究員で、事案研究班と対策実装チームに所属。専門分野は産業心理学、産業人間工学、労働科学。過労死等の防止対策、運転労働、疲労対策、作業のエルゴノミック改善に取り組んでいる。主要な職歴は、愛知学院大学文学部の助手や公益財団法人大原記念労働科学研究所の研究員など。オフの時間は美術館やライブ・コンサートなどのアート鑑賞をすることで過ごしている。特に好きなのは「横浜トリエンナーレ」や出身地の愛知のトリエンナーレのように、展示会場が散らばっていて、ふだんあまり行かない場所を移動しながら見て回るタイプの現代アート展である。