週5日から週4日勤務に変更した際のウェルビーイングの検討:141の多国籍企業と2,896名の従業員を対象とした比較対照群を伴う12か月間の前後比較試験
出典論文
Wen Fan, Juliet B. Schor, Orla Kelly, Guolin Gu, Work time reduction via a 4-day workweek finds improvements in workers’ well-being, Nature Human Behaviour, July 2025, https://doi.org/10.1038/s41562-025-02259-6
著者の所属機関
ボストン・カレッジ 社会学部(アメリカ)
論文の内容
仕事に費やす時間は、私たちの生活の多くの側面に影響を与える、労働条件の最も基本的な要素の一つです。本研究では、給料を減らすことなく会社全体で「週4日勤務制」を導入することが、従業員のウェルビーイングにどのような影響を与えるかを調査しました。このプロジェクトに参加した企業は、まず効率や連携を高めるために仕事のやり方を見直す準備(具体的には、不要な会議の削減、非生産的な仕事の制限、業務の流れの見直し等)を行って、その後に6ヶ月間の「週4日勤務制」の試験導入を実施しました。参加した企業はオーストラリア、カナダ、アイルランド、ニュージーランド、イギリス、アメリカの141組織で、そこで働いていた2,896名の従業員を対象に調査を行ったところ、以下のような結果が得られました。
1)「燃え尽き症候群」の改善
2)仕事への満足度の向上
3)メンタルヘルス(心の健康)とフィジカルヘルス(体の健康)の改善
こうしたポジティブな変化は、週4日制を導入しなかった比較対象となった会社(12社)では観察されませんでした。また、労働時間が短くなるほどウェルビーイングは高まる傾向にあり、特に「個人レベルでどれだけ労働時間を減らせたか」が、ウェルビーイングの向上と強く関連していました。なぜこのような効果が得られたのかを詳しく分析したところ、以下の3つの要因が大きく関係していることが分かりました。
- 「自分は仕事をうまくこなせている」という実感(仕事能力)が高まったこと
- 睡眠のトラブルが減ったこと
- 疲労感が軽減されたこと
以上の結果から、給料を維持したまま労働時間を短縮する「週4日勤務制」は、働く人のウェルビーイングを高めるために非常に効果的な取り組みであると言えます。
RECORDsメンバーによる解説
本研究はこれまでの研究とは違って次の3つの強みがある研究です。1)これまでは北欧を中心にした研究が多かったのですが、本研究では様々な国(オーストラリア、カナダ、アイルランド、ニュージーランド、イギリス、アメリカ)で実施されているので、研究成果の一般化可能性が高い点が評価されます。2)従来の研究では1時点での横断調査が多かったのに対して、本研究は比較対象群を設けた研究デザインになっているのでエビデンスレベルが従来の研究よりも高いと言えます。3)今までの研究は1日の労働時間を減らす方法(例えば、1日6時間勤務)でしたが、この研究では努力回復モデル(Effort-Recovery Model)に基づいて、1日の休日を増やすというコンセプトで実施されています。
具体的には以下の方法でこの研究では、休日を1日増やしたと解説されていました。
1)基本モデル(100-80-100): 給与を100%維持したまま、労働時間を80%に削減し、かつ100%の生産性を維持するというモデル(非営利団体「4 Day Week Global (4DWG)」が提唱)を採用
2)準備期間(8週間): トライアル開始前の約8週間で「業務の再編成」を行い、「不要な会議」などの付加価値の低い活動を徹底的に削減
3)従業員の裁量と工夫: 従業員が自ら業務効率を高める戦略を立てられるよう裁量権を与え、個々人が仕事の進め方を最適化(ジョブ・クラフティング)することを促進
この組織的な見直しによって、1日あたりの労働時間を大幅に増やすことなく、週あたりの労働時間を平均で約5時間(最頻値で32時間、つまり1日8時間×4日)まで短縮しています。
上記でご紹介した本研究における3つの強みは、以前、このポータルサイトでもご紹介したフィンランド労働衛生研究所のKati Karhula先生らがまとめた「労働時間短縮に関する職場レベルでの介入および試験:スコーピングレビュー」で指摘されていた研究対象の少なさ、地域や職種の偏り、研究デザインの問題がクリアされているので、研究の質としてとても高いものだと評価できます。また、Karhula先生らが指摘していた労働時間が短くなると、その副作用で労働密度が上がってハードになってしまう問題も、上述した通り、準備期間を十分に設けて労働時間を短縮したことや、従業員の裁量を高める工夫などにより、緩和されているものと評価できます。
一方、課題として考えられることは、1)労働時間やウェルビーイングに関する評価指標が自己報告のみであること、2)本研究における生産性は、参加者個々人が評価するWork Ability尺度で評価されています。具体的には、「自分の現在の労働能力(Work Ability)を人生で最高の状態を10点とした場合に何点として評価するか?」と回答者に尋ねて、0点から10点のスケールで評価したものです。したがって、週4日勤務によって実際に参加した企業の売り上げがどのように変化したのかまではこの研究からでは分かりません。3)本研究に参加できる企業は、健康志向の高い企業であると思われるので、本当に労働時間を減らさないといけないようなブラック企業へのアプローチとしては、また違う方法論が求められると思います。
以上のことから示唆されるポイントは、本研究が単に労働時間を減らす介入ではなく、組織にとって、あまり価値のない業務を徹底的に排除したり、仕事のやり方についての従業員の裁量度を上げる等の業務再編成を時間をかけて行ったことが、結果的に従業員の疲労や睡眠問題を改善して生産性や従業員のウェルビーイングの向上に結び付いた点です。
※努力回復モデル(Effort-Recovery Model)とは「労働によって消耗したリソースを回復させるためには、仕事から離れた十分な時間が必要である」という考え方です。従来の労働時間短縮の研究では1日のあたりの労働時間を数時間減らす方法でしたが、それでは仕事から十分に離れる時間の確保にはならないので、疲労やストレスの回復を効果的に実施するために本研究では1日の休日を増やすという努力回復モデルの考えのもとに実施されました。