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労働時間短縮に関する職場レベルでの介入および試験:スコーピングレビュー

労働時間短縮に関する職場レベルでの介入および試験:スコーピングレビュー
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公開資料

労働時間短縮に関する職場レベルでの介入および試験:スコーピングレビュー労働時間短縮に関する職場レベルでの介入および試験:スコーピングレビュー

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Workplace-level interventions and trials of working time reduction:A SCOPING REVIEW

本文

【著者】フィンランド労働衛生研究所 ワークアビリティ&ワークキャリアユニット 
    Kati Karhula(フィンランド労働衛生研究所)
    Timo Anttila (ユヴァスキュラ大学)
    Päivi Vanttola(フィンランド労働衛生研究所)
    Mikko Härmä(フィンランド労働衛生研究所)

 【翻訳責任者】
    久保智英(労働安全衛生総合研究所 過労死等防止調査研究センター )

公開資料の解説(解説者:久保智英)

労働時間短縮に関する職場レベルでの介入および試験:スコーピングレビュー

「労働時間の長さは?」と尋ねられたら、通常、1日8時間というイメージが固定化していますが、1日8時間労働がわが国で初めて法的に定められたのは1947年の労働基準法になります。それから約80年が経過しました。さらに世界に目を向けると、1日8時間の労働時間の規定は1919年の第1回国際労働機関(ILO)総会において決定されています。つまり、世界的には1日8時間労働の規定は約100年が経過したことになります。

しかし、現在の働き方は100年前と比べて大きく変わりました。同じ1時間でも、その中でできる仕事量は100年前に比べて飛躍的に高まっています。近年では、1日6時間労働や週休3日勤務を導入する企業も登場していることから、大昔に作られた1日8時間労働のルールに対して「そもそも1日8時間労働でなくても良いのでは?」、「もっと短くても良いのでは?」という問題が世界的にも注目を浴びるようになっています。

そこで今回、ご紹介するフィンランド労働衛生研究所のKati Karhula上席研究員らのグループが2023年に発表した報告書は、様々な国で行われた労働時間を短縮したことの効果(週35時間までの短縮)を検証した研究について、スコーピングレビューという科学的な手法を用いてまとめたものです。くわえて、エビデンスレベルの高い研究計画である介入研究で得られた論文に焦点を当てて検索し、まとめている点でも価値のある報告書なので、英語で執筆された報告書を日本語に翻訳して公開することといたしました。

残念ながら、私の知る限り、わが国においては、この報告書のように、実際の企業で給与は変えずに労働時間を短縮させて健康や生産性などへの影響を検討した介入研究は行われていません。したがって、この報告書の内容は今後、わが国でも労働時間の短縮を議論する際に非常に重要なデータになることでしょう。

著者からのコメント






【著者】
 Kati Karhula(フィンランド労働衛生研究所)

労働時間を減らすことは、人材のリクルートや確保といった潜在的な利点とともに、多くの西側諸国において議論されてきました。しかし、労働者のウェルビーイングの改善と生産性の低下を伴わないで、労働時間を減らすことは可能なのでしょうか?このスコーピング・レビューでは給与を減額させることなく、労働時間を週35時間まで短縮させたことによる影響を検討することが目的でした。包括的な参考文献の情報は様々なデータベースや、4つのヨーロッパ言語における文献検索によって得られたものです。母国語での出版において、労働時間短縮における介入研究や実験研究のエビデンスや経験は散見されますが、部分的に制限されていました。レビューの結果から、労働時間の短縮は一般的に職務満足の改善だけではなく、労働強化の経験とも関連性が認められました。また、限られた数の調査からは、自覚的な睡眠の質、ワークライフバランス、筋骨格系障害の改善という結果も示されました。以上の結果から、生産性の低下を伴わず、労働時間を短縮させることは可能だと思われますが、病欠あるいは生産性に焦点を当てた研究が今後、求められるでしょう。(翻訳:久保智英)

Kati Karhula

(原文)Reducing working time is being debated in many Western countries, with potential benefits for recruitment and retention. But can working time be reduced while improving employee well-being and without decreasing productivity? This scoping review aimed to investigate the effects of reducing working time to up to 35 hours per week without reducing the pay. A comprehensive reference base was obtained by using several databases and a grey literature search in four European languages. The evidence and experiences of interventions and experiments in reducing working time is scattered, and partly limited to publications in national languages. The results show that reduced working hours were generally associated with improved job satisfaction, but also with experiences of work intensification. A limited number of trials have resulted in improvements in perceived sleep quality, work-life balance, and musculoskeletal disorders. It seems possible to reduce working time without reducing productivity, but studies focusing on sickness absence or productivity are warranted.

Kati Karhula
記事を書いた人

Kati Karhula

フィンランド労働衛生研究所(ヘルシンキ, フィンランド)のワークアビリティ&ワークキャリアユニットに上席研究員として勤務。労働時間、睡眠と回復、ウェルビーイングと心理社会的な問題などの研究に従事。2024年6月からタンペレ大学の客員教授(産業保健心理学)に就任。