【令和5年度】 総括研究報告書 過労死等の実態解明と防止対策に関する総合的な労働安全衛生研究

  • 令和5年度
  • 高橋 正也
  • 総括報告書

研究要旨

この研究から分かったこと

事案研究、疫学研究、実験研究、対策実装研究の4 つのアプローチ(分野)から、我が国における過労死等の実態解明とともに有効な防止対策像について多くの示唆が得られた。

目的

過労死等労災事案の解析、疫学研究(職域コホート研究現場介入研究)、実験研究(心血管系の作業負担心肺体力測定法の職場応用)、対策実装研究(研究成果の直接的還元)を実施し、過労死等の更なる実態解明と実施可能な防止対策を提案することを目的とする。

方法

1)調査復命書の情報を解析し、過労死等の発生メカニズムを検討する「事案研究」、 2)労働現場で働く人々を対象として、過労死等の発生に関連する要因の解明と、有効な疲労対策の効果検証を行う「疫学研究」、3)労働現場では検証することが困難な状況を実験室で模擬し、精緻な検証を行う「実験研究」、以上の3 つのカテゴリーの研究で得られた知見をもとに考えられた対策を実社会に還元し、過労死等の防止を目指す「対策実装研究」の4つのアプローチ(分野)から過労死等の実態解明と防止対策を総合的に検討した。

結果

事案研究からは、主に過去12 年間の過労死等の業務上外事案の特徴の経年変化、重点業種の解析、2024 年4 月に時間外労働の上限規制が適用される自動車運転従事者、建設業の過労死等の特徴と分析結果の活用研究、過労死等の病態や負荷要因の解析、過労死等防止のための社会科学的な検討、過労死等に係わる労災保険給付状況結果が得られた。 疫学研究のコホート研究ではJNIOSH コホートの対象施設のメンテナンスを継続し、データ解析によって仕事要求度はその後の健康状態にも強く影響する可能性があるなどの知見が得られた。現場介入調査研究では、介護職場でのAI を活用した勤怠スケジューラーの利用、トラックドライバーを対象とした指輪型生体デバイスを活用した調査と解析、COSMIN 指針に基づく「過労徴候しらべ」の改訂、過重労働と生体負担を評価するバイオマーカーの検討を行った。 実験研究では、ドライビングシミュレータを用いた実験研究によってドライバーの心血管系負担に対する休憩効果の検討を行った。また循環器疾病発症との関連性が強く指摘されている心肺持久力(CRF)の評価法として、これまでに開発した「労働者生活行動時間調査票(WLAQ)」と「簡易体力検査法(JST)」の有用性が確認された。 対策実装研究では、運輸業と建設業を対象に、現状の把握と効果的で実施可能な過労死等の防止対策を議論するためのステークホルダー会議を開催し、脳・心臓疾患のハイリスク者管理、重層構造における過重労働対策、中小規模事業場における産業保健支援方法、労働者の過労死等防止のための行動変容支援、職場環境改善を支援するチェックリスト(ドライバー版)開発と改善プログラムの開発を行った。また、本年度はこれらの研究成果の普及のため過労死等防止に関わるポータルサイトを開設した。

考察

事案研究、疫学研究、実験研究、対策実装研究の4 つのアプローチ(分野)から、我が国における過労死等の実態解明とともに有効な防止対策像について多くの示唆が得られた。今後、脳・心臓疾患だけでなく、申請件数・認定件数ともに増加傾向が続く精神障害・自殺に重点を置いた過労死等防止対策研究と、包括的な研究体制の再考、学際的な対策実装研究の継続によって総合的な過労死等防止を進めることが期待される。

執筆者

高橋 正也 

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