長期休業者リスト掲載の従業員における診断名別の職場復帰・退職・死亡の累積発生率:産業保健に関する日本疫学共同研究(職域多施設研究、J-ECOHスタディ)からの知見
出典論文
Nishiura C, Inoue Y, Kashino I, et al. Diagnosis-specific Cumulative Incidence of Return-to-work, Resignation, and Death Among Long-term Sick-listed Employees: Findings From the Japan Epidemiology Collaboration on Occupational Health Study. J Epidemiol. 2022 Sep 5;32(9):431-437. doi: 10.2188/jea.JE20200541. Epub 2021 Aug 11. PMID: 33716270; PMCID: PMC9359901.
著者の所属機関
Department of Safety and Health, Tokyo Gas Co., Ltd., Tokyo, Japan
内容
背景:有給病気休業制度を計画する場合、どの程度の期間で職場復帰するのが適切かを理解することは重要であるが、病気休業者が、いつ、どれだけの期間、職場復帰し、失業し、あるいは死亡したかという原因別の情報を収集する試みはほとんどなされていない。
方法:日本の民間企業11社の従業員 (n=1,209) を対象に、2012~2013年に55歳以下で連続30日以上の最初の病気休業事例を調査し、2017年までフォローアップ調査を行った。職場復帰、退職、死亡の全体および疾病別の累積発生率を競合、リスク分析を用いて推定した。
結果:3.5年(フォローアップ率:99.9%)の間に、1,014人が職場復帰し、167人が失業し、27人が死亡した。全体的に、1年以内の復職率は休業者全員の74.9%であり、無事に職場復帰した人の89.3%であった。また、1年以内に退職したのは、休業者全体の8.7%、退職者全体の62.9%であった。ICD-10の各章によると、職場復帰の累積発生率は、精神障害 (F00-F99) の82.1%から循環器疾患 (I00-I99) の95.3%までであった。精神障害による累積職場復帰率は、統合失調症 (F20) の66.7%から双極性感情障害 (F31) の95.8%までであった。死亡は、新生物 (C00-D48) を除いてほとんど観察されず、その累積死亡率は1.5年後までに14.2%に達した。
結論:日本の民間企業で、長期休業者の病気休業に関し、職場復帰と退職は1年以内に多く発生していた。この結果は、産業医や雇用主が、効果的な社会保護制度を構築する上で有用であろう。
解説
本論文は長期休業者の診断名別の職場復帰・退職・死亡の累積発生率を報告しています。日本の11の民間企業のデータに基づくもので、産業保健に関する日本疫学共同研究(職域多施設研究、J-ECOHスタディ)の成果です。これまで、どのような病気でどのぐらいの期間、病気療養しているのかまとまった知見は限られていました。本論文では連続30日以上の病気休暇となっている疾患は、精神疾患が6割弱(57.5%)で、次に悪性新生物(がん)が9.3%、外傷が8.5%であること、復帰した人の中では1年以内に7割以上が復帰していることなど、日頃の産業保健の現場での疾病管理に関して有用な情報を提供しています。本論文は精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会(第10回)等でも精神障害の一般的な復帰目安としての知見として取り上げられています(https://www.mhlw.go.jp/content/11201000/001025933.pdf)。一方、最終的に精神疾患では17.4%、筋骨格系疾患では13.3%は復職できずに退職となっていること、本データは比較的産業保健体制が整った大企業の状況であること等に留意する必要があります。