トラックドライバーの心疾患リスクと精神的健康状態:システマティックレビュー

トラックドライバーの心疾患リスクと精神的健康状態:システマティックレビュー
目次

出典論文

Guest, A. J., Chen, Y. L., Pearson, N., King, J. A., Paine, N. J., & Clemes, S. A. (2020). Cardiometabolic risk factors and mental health status among truck drivers: a systematic review. BMJ open, 10(10), e038993.

著者の所属機関

School of Sport Exercise and Health Sciences, Loughborough University, Loughborough, Leicestershire, UK

内容

本論文はトラックドライバーの心血管代謝リスク、健康行動及びメンタルヘルスに関する健康リスクについての確認を目的としたシステマティックレビューである。
PubMedScopusPsycINFOWeb of Scienceの検索エンジンを使用し、トラックドライバーに限定し、心血管代謝・メンタルヘルスおよび/または健康行動の分析結果が有り、かつ2020116日までに掲載された英語の査読付き論文を対象とした。その結果、3,601件の関連する論文から73の研究(北米が28件、南米が12件、アジアが14件(日本4件含む)、欧州が8件、オーストラリアが8件、アフリカが3件)が該当した。BMIの報告は53件あり、WHO(世界保健機構)の基準である過体重(BMI25以上)は27研究、肥満(30以上)が23研究であった。高血圧の有病率は77%の研究で世界基準の有病率(26.4%)より高く、総コレステロール値は12研究の内6研究で200mg/dl以上(基準値140199mg/dl)であった。メンタルヘルスについては、うつ病・抑うつ症状19件、不安症8件、心理ストレス10件の研究の中で、ある質問紙調査における主なストレス要因は、交通渋滞、厳密な車両追跡管理、長時間労働であり、仕事のコントロールについて54%が低いという回答と軽度の精神疾患に関連があった。また、米国の職業集団の大規模サンプルにおいて、トラックドライバーのうつ病有病率が平均的な米国労働者より2倍高いという報告、補助ドライバーがいるドライバーは単独のドライバーよりうつ病の有病率が大幅に低いという報告、トラックドライバーの27.9%が孤独であると報告があった。これらの結果からトラックドライバーの健康状態の改善には、トラックドライバーを含む全ての利害関係者が政策・規制・方法について取り組む必要があると示唆された。

解説

トラックドライバーの健康状態を心血管代謝リスク要因、メンタルヘルス状態及び食事や身体活動などの健康行動について系統的にまとめた最初のシステマティックレビュー論文である。心血管代謝リスクが高いこと及びメンタルヘルス不調の背景要因として、トラックの運転は、長い労働時間、睡眠不足、不健康な食生活、長時間の固定された運転姿勢、単独業務による孤独感等があった。一方、メタ分析は研究方法や結果の説明が不均一のため行っておらず、研究地域が不均等に分布され偏りがあること、サンプルサイズが100人以下の研究が24%あり、信頼性に影響を及ぼす可能性があると筆者らは指摘している。また、運行を短距離(500㎞)と長距離(500㎞以上)に分類した36研究の内27件が長距離であり、積み降ろしが頻繁にある短距離ドライバーに関する研究が今後さらに必要である。日本における対策案として、所属事業場は休暇の推奨等の健康サポート他、取引先(荷主等)は長時間荷待ち対策等による法令遵守の協力、国はトラックGメンによる現場監視の継続的な活動等が考えられる。

茂木 伸之(もてぎ のぶゆき)
記事を書いた人

茂木 伸之(もてぎ のぶゆき)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の特定有期雇用研究員で、事案研究班に所属。専門分野は人間工学、労働科学、産業人間工学。道路貨物運送業の精神障害事案の分析と地方公務員の過労死等の公務災害認定事案の調査研究も担当。主要な職歴としては、公益財団法人大原記念労働科学研究所の特別研究員、武蔵野大学通信教育部の非常勤講師、武蔵野大学人間科学部の非常勤講師、千葉工業大学社会システム科学部の非常勤講師などがある。オフの時間の楽しみ方は千葉ジェッツと千葉ロッテマリーンズの応援。