【学会報告】第99回 日本産業衛生学会:その1
RECORDsメンバーが第99回日本産業衛生学会において奨励賞受賞!
2026年5月27日~30日の4日間、大阪で開催された第99回 日本産業衛生学会において、RECORDsメンバーが奨励賞を受賞しました。(オンデマンド配信:2026年6月23日~8月17日(正午))
久保智英研究員
産業衛生学会の中で最も歴史の長い1951年に立ち上がった産業疲労研究会の第11代目代表世話人に就任した立場から、産業疲労研究の「これまで」と「これから」について私見を踏まえながら講演を行った。
◇ 受賞講演 ◇
産業疲労研究の復権を目指して:産業疲労研究会のこれまでとこれから
1.産業疲労研究会のこれまで
この産業疲労研究会の活動は、時代ごとに生じた労働問題に対して労働者の疲労という視点から、「概念や方法論の構築」「測定や改善ツールの開発」「労働現場に根差した疲労対策」を主に行ってきた研究会であったと演者は総括する。その中でも重要な点は、研究会の代名詞ともいえる「自覚症状しらべ」の改訂を脈々と続けてきたことからも分かるように自覚的な疲労を重視してきたことと、個々人の疲労の問題ではなく「集団疲労」という暉峻の考え方に基づいて疲労対策を進めてきたことにある。
2.産業疲労研究会のこれから
これまでの研究会の諸先輩方の活躍を継承して産業疲労研究を更に発展させるため、この研究会の「これから」のテーマは、①疲労は悪なのか?②自覚的な疲労の重要性に対する再考③職場の特性に応じたオーダーメイドの疲労対策④レスタビリティ(休む力)と考えている。加えて、「次世代の育成」「議論できる研究会」」という目標を加えたい。
働く人々の疲労は古くて新しい問題として今後も労働することがなくならない限り続く重要な研究テーマである。この歴史ある産業疲労研究と産業疲労研究会をこれまで以上に発展させて、現場のニーズに基づいて現代の疲労の問題を改善させることが私の使命だと思っている。今回の受賞を契機に、その使命を全うするとともに、引き継いだものを次世代につなげられるように今後も気持ちを新たにして精進していきたい。
武林亨理事長と久保研究員
守田祐作 研究員
専属産業医として日々の実務に向き合いながら、産業現場からのエビデンスの創出およびエビデンスの産業現場への適用を通じ、「実務と研究を高次元に融合させたい」という自身の原点と、これまでの活動・歩みについて講演を行った。
◇ 受賞講演 ◇
実務と研究をつなぐデータとエビデンスに基づく産業保健の実践
1.職場の関心に合わせて、健康データで訴える
産業医として最初に直面した大きな課題は、受動喫煙対策の遅れと喫煙率の上昇であった。通常の喫煙対策の説明では上司から良い反応が得られず、当該企業の文化である「安全第一」に訴えようと考え、事業場データから「喫煙者は非喫煙者に比べ労災リスクが1.72倍高い」ことを示した。これは幹部講話でも引用され、喫煙対策推進の原動力となった。
2.エビデンスの産業医実務への応用
復職可否判断や就業制限の判断は、産業医の専門性が問われる重要な業務である。判断の揺らぎを防ぐため、同世代の学会員とともにEvidence based Occupational Health(EBOH)勉強会を立ち上げ、疾病面・業務面から復職時に検討すべき事項を整理した「Fitness Sheet」を考案した。
3.経験知の体系化と横展開
データを用いた経営層への訴求方法、Excelによる健康データ分析、データで健康施策を可視化しながらPDCAを回すなど、現場で役立った技術を再現可能な形で整理し、学会シンポジウムや医師会研修会、若手研究者の会で継続的に発信してきた。
4.長時間労働と脳・心血管疾患の病態研究
長時間労働と脳・心血管疾患を結ぶ病態メカニズムの解明に取り組んでいる。過労死認定された事案では高血圧性の脳出血が多いことを突き止め、長時間労働による脳出血発症予防のために血圧管理が特に重要であることを論文で示した。また、くも膜下出血や脳梗塞、心臓疾患についても同様に、ブラックボックスであった長時間労働と脳・心血管疾患を結ぶメカニズムを病態研究から解明し、産業医の視点で過労死予防に活用できる研究を続けている。
武林亨理事長と守田研究員
友永泰介 先生(産業医科大学)
産業医科大学 産業生態科学研究所 呼吸病態学研究室の友永泰介先生が、受賞講演を行いました。
◇ 受賞講演 ◇
吸入性化学物質の肺障害評価を通じた社会貢献を目指して
友永先生は、職場や生活環境で吸い込む化学物質や微粒子が肺に及ぼす影響を評価する研究に取り組んでいます。これまでにナノ材料や有機粉じん、マイクロプラスチックなどを対象として、肺障害の発症機序や健康リスクの解明を進めてきました。
講演では、これまでの研究成果を紹介するとともに、新たな化学物質や材料が次々と開発される中で、健康影響を適切に評価する新しい手法の必要性について説明されました。労働者の健康を守りながら産業発展にも貢献する、今後の研究への期待が示されました。
武林理事長と友永先生