研究報告書

【令和4年度】 過労死等の実態解明と防止対策に関する総合的な労働安全衛生研究 総括研究報告書

【令和4年度】 過労死等の実態解明と防止対策に関する総合的な労働安全衛生研究 総括研究報告書
目次

研究要旨

目的

我が国における過労死等の実態を解明し、過労死等の発生要因の検討とともに、過労死等を防ぐための有効な対策について検討・立案することが本研究の目的である。

方法

1)調査復命書の情報を解析し、過労死等の発生メカニズムを検討する「事案研究」、 2)労働現場で働く人々を対象として、過労死等の発生に寄与する要因の解明と、有効な疲労対策の効果検証を行う「疫学研究」、 3)労働現場では検証することが困難な状況を実験室で模擬し、精緻な検証を行う「実験研究」、以上の3 つのカテゴリーの研究で得られた知見をもとに考えられた対策を実社会に還元し、過労死等の発生を防止することを目指す「対策実装研究」の4 つのアプローチ(分野)から過労死等の実態解明と防止対策を総合的に検討した。

結果

事案研究からは主に過労死等の発症に関する労災認定事案の過去11 年間の業務上事案、過去10 年間の業務上外事案の経年変化、重点業種の解析、過労死等の病態や負荷要因の解析、過労死等の発生に関する社会科学的な検討、過労死等に係わる労災保険給付の状況の結果が得られた。疫学研究のコホート研究における、統計的に有意なオッズ比が示された健康診断指標は、平均労働時間ではHbA1c、HDL コレステロール、LDL コレステロール、長時間労働の頻度ではBMI、収縮期血圧、空腹時血糖であった。現場介入調査研究では、AI を活用した勤怠スケジューラーを利用した介護労働者への介入調査の実施、トラックドライバーを対象とした働き方と血圧の関連性、勤務時間外の仕事のメールと在宅勤務が疲労に及ぼす影響、夜勤・交替勤務とセルフモニタリング能力の関連性の検討、過重労働と生体負担を評価するバイオマーカーの検討の結果がまとめられた。実験研究では、ドライバーの休憩取得の効果について実験的に評価を行うドライビングシミュレータを用いた効果的な休憩取得の実験計画を準備し、予備実験を実施した。また、労働者の心肺持久力(CRF)の評価のための質問票(WLAQ)と簡易体力検査法(JST)の測定手法の有用性を改めて確認した。過労死等事案分析から心血管リスクのある既往症の罹患割合が高く、内的要因の影響も少なくないことがわかった。対策実装研究では、運輸業と建設業を対象に、現状の把握と効果的で実施可能な過労死等の防止対策を議論するためのステークホルダー会議を開催し、脳・心臓疾患のハイリスク者管理、重層構造における過重労働対策、中小規模事業場における産業保健支援方法、労働者の過労死等防止のための行動変容支援、職場環境改善を支援するチェックリスト(ドライバー版)開発と改善プログラムの開発を行った。

考察

事案研究、疫学研究、実験研究、対策実装研究の4 つのアプローチ(分野)から、我が国における過労死等の実態解明とともに有効な防止対策像について多くの示唆が得られた。

執筆者

高橋正也

PDF