【令和6年度】総括研究報告書過労死等の実態解明と防止対策に関する総合的な労働安全衛生研究

  • 令和6年度
  • 高橋 正也
  • 総括報告書

研究要旨

目的

本研究は、過労死等の実態をより詳細に解明して有効な防止対策を提案するために、過労死等労災事案の解析及び予防研究(疫学研究[職域コホート研究、現場介入研究]、実験研究[心血管系の作業負担、労働者の体力科学]、対策実装研究)を実施し、これらの研究成果を国民や社会に広く還元することを目的とする。

方法

本研究は、過労死等防止対策推進法(平成26年11月施行)に基づく調査研究等として平成27年度より開始し、令和6年度から令和8年度はこれまでの研究成果を踏まえ「実態解明の深化と対策指向の強化」として計画した。具体的には①調査復命書の情報を解析し過労死等の実態及び発生原因と防止策を検討する「事案研究」(柱1)、②過労死等防止対策づくりを強化するため、疫学研究、実験研究、対策実装研究を「予防研究」として統合し、1労働時間・時間以外要因と心身の健康との縦断的関連の解明研究(コホートチーム)、2労働現場に即した対策の提案研究(現場介入チーム)、3過労死等の高リスク群(高齢者等)の循環器負担の解明と対策提案研究(心血管系チーム)、4労働者の健康維持のための体力科学的評価と対策提案研究(体力科学チーム)、5業界ステークホルダーと協働したエビデンスに基づく予防策の労働現場での実践と検証研究(対策実装チーム)のチームで研究を実施し、得られた結果を過労死等事案の解析や労働・社会面の調査研究とも連携した(柱2)。さらに、令和5年度に構築した過労死等研究の成果の公開と普及のための過労死等防止調査研究センターのポータルサイトの内容を充実させた(柱3)。

結果

事案研究(柱1)では、①過去13年間の過労死等の業務上外事案の特徴の経年変化を分析し、過労死等の発生病態の解明として②脳・心臓疾患うち院外心肺停止事案、③精神障害事案のうちパワーハラスメント事案の行為者・非行為者及び行為内容、④セクシュアルハラスメントと強制わいせつ事案、重点業種として⑤精神障害事案における産業医等の関与に関する分析、⑥道路貨物運送業における精神障害の自殺・死亡事案、⑦業種・職種別の過労死等の特徴に関するファクトシート作成(医療、IT産業、自動車運転従事者、建設業等)、⑧トラック運送業における運行パターンの定量解析、社会科学視点として⑨脳・心臓疾患の連続、深夜、不規則勤務の分析結果が得られた。予防研究(柱2)では、1コホートチームは⑩JNIOSHコホートを利用して高ストレス状態の労働者の特徴を明らかにし、2現場介入チームは⑪指輪型生体デバイスを用いたトラック事業者への睡眠介入調査、⑫心理社会的ストレスを評価するバイオマーカーの検討、⑬現場コミュニケーションと心理的安全性、⑭「過労徴候しらべ改訂版」の開発を行った。3心血管系チームは⑮高年齢労働者の心血管系負担の実験研究を実施し、体力科学チームは⑯労働者が自己測定できるCRF評価法の一つのmJSTの評価等を行った。対策実装チームは⑰実装研究の総括、⑱労災認定件数が急増している精神障害の過労死等対策実装戦略の検討、⑲事業者によるハイリスク者の把握と管理、⑳重層構造の解明、㉑小規模事業場の健康・労務管理を含めた産業保健サービスの支援手法の検討、㉒個人の行動変容の支援のためウェアラブルデバイスの活用研究、㉓参加型職場環境改善手法の開発と現場応用研究を実施した。さらに、過労死等研究成果の公表、過労死等事案の特徴(重点業種別)を視覚化して公開する準備等を進め、ポータルサイトのコンテンツを拡充した(柱3)。

考察

事案研究、予防研究、成果の公表の3つの柱をもとに研究を実施し、我が国における過労死等の実態解明とともに有効な防止対策像について多くの示唆が得られた。今後、脳・心臓疾患だけでなく、申請件数・認定件数ともに増加傾向が続く精神障害・自殺に重点を置いた過労死等防止対策研究と、包括的な研究体制の再考、学際的な対策実装研究の継続によって総合的な過労死等防止を進めることが期待される。

執筆者

高橋 正也 

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