【平成30年度】 総括研究報告書 過労死等の実態解明と防止対策に関する総合的な労働安全衛生研究
研究要旨
我が国における過労死等防止に資するため、1)過労死等事案の解析、2)疫学研究(職域コホート研究、現場介入研究)、3)実験研究(循環器負担のメカニズム解明、過労死関連指標と体力との関係の解明)を第1期(平成27~29年度)に引き続き、第2期(平成30~32年度)の研究として開始し、それぞれ以下の結果を得た。
<過労死事案研究>
①平成22~28年度の7年間の脳・心臓疾患及び精神障害の業務上事案についてのデータベースを構築し、性・年齢、疾患名、業種、健康管理状況等及び出来事別の推移についてまとめた。重点業種の解析から、②建設業については、長時間労働、労働災害、発注者や元請け側からの無理な業務依頼、対人関係の問題に対する対策の強化が必要と考えられる。また、現場監督、技術者等や技能労働者等、管理職、事務・営業職等の職種によって異なる業務による過重労働の負荷が生じており、建設業内でも職種別に考慮した対策が重要である。③また、建設業の精神事案の分析から、建設工事の個々の過程を見直して労働時間の過剰な延長を避けるとともに、建設安全の確保が本業種で働く労働者の精神障害を予防するのに有効と考えられた。④メディアについては、長時間労働対策とともに、若年労働者の過重労働や対人関係に関する問題、発注者側からの無理な業務依頼に着目した過重労働を未然に防止するための取組が重要であると考えられる。⑤運輸業・郵便業の平成27~28年度と平成22~26年度の脳・心臓疾患事案を比較し、50人以上の事業場への保健指導、健康状態がハイリスクであるドライバーの健康管理、早朝勤務日数の削減と荷扱い時の対策が重要と指摘された。⑥自営業者、役員等の過労死等の防止のために、サプライチェーンにおける包括的安全衛生管理、産業保健サービス提供機関等による多層支援、経営支援と人員不足対策、教育・研修機会の提供等の重要性が示された。法学的・社会学的視点からの解析では、⑦事案の定量的検討から発症時年代別、業種別、職種別で特に検討すべきカテゴリが示され、定性的検討から過労死等防止対策の方向性が示された。⑧また、調査復命書等の記述内容の試行的な質的分析から、被災者の業務負荷や職場の状況については、分析事案の中でいくつかの共通性が見出された。
<疫学研究、現場調査>
⑨勤務状況とその後の健康との前向き関連を調べる職域コホート研究を開始し、長期的研究体制を整え、第三次産業一社の勤怠データ、健診データ、ストレスチェックデータ、質問紙データに基づいて横断的な分析を行ったところ、評価指標によって労働時間の影響の現れ方は変わることが判明した。⑩地場及び長距離トラックドライバーを対象とした現場調査から、地場運行では拘束時間は短いものの、勤務間インターバルが短く、出庫時刻が早く、勤務日と休日の平均睡眠時間がそれぞれ7時間未満であり、このような労働条件下での短時間睡眠が疲労、眠気を増大させることが示され、また、高血圧者では短時間睡眠に対する脆弱性があることが考えられた。⑪交代勤務看護師を対象とした調査では、勤務シフトごとに睡眠取得の状況が大きく異なること、睡眠時間と精神的健康度の間に負の相関関係がうかがわれたことが示された。
<実験研究>
⑫長時間労働と循環器負担に注目した実験からは、長時間労働は心血管系の負担を増大し、特に安静時血圧が高めの群の負担が大きいこと、作業中の長めの休憩(50分以上)は過剰な血行動態反応を抑制する効果が認められ、やむを得ず長時間労働をしなければならない場合は、複数の長めの休憩を確保することが望ましいこと、長時間労働時の心血管系反応には個人差が存在することが示唆された。⑬心肺持久力(CRF)に関する研究では、労働者のCRFを簡便かつ安全に評価する検査手法としてHRmixを開発した。