ストレス対処と死亡率の関連:性別による違い

ストレス対処と死亡率の関連:性別による違い
目次

出典論文

Nagayoshi M et al., Sex-specific relationship between stress coping strategies and all-cause mortality: Japan Multi-Institutional Collaborative Cohort Study
J Epidemiol. 2023 May 5;33(5):236-245. doi: 10.2188/jea.JE20210220. Epub 2022 Apr 28.

著者の所属機関

名古屋大学

内容

ストレス対処は、健康上のアウトカムと関連している。しかし、ストレス対処と死亡率の性差に関する明確なエヴィデンスはない。我々は、日本人成人の性差に着目し、全死因による死亡率とストレス対処の関係を調査した。2004年から2014年にかけてJapan Multi-Institutional Collaborative Cohort Studyに参加した35~69歳の計79,580人を対象に、死亡率について追跡調査を行った。5つの対処法(感情表出、情緒的サポート希求、肯定的再評価、問題解決、なりゆき任せ)の使用頻度を質問紙で評価した。各対処法の使用頻度(ほとんどない、たまにある、よくある、非常によくある)の死亡率の多変量調整ハザード比(HR)を男性・女性で算出した。追跡調査期間中(中央値8.5年)、1,861人の死亡が記録された。女性では、感情表出(HR=0.81、95%CI:0.67-0.97)、情緒的サポート希求(HR=0.79、95%CI:0.66-0.95)、なりゆき任せ(HR=0.80、95%CI:0.66-0.98)の対処法について「たまにある」を選択していた場合、「ほとんどない」を選択した場合と比較して、死亡率が低かった。同様に、男性では、感情表出の対処法について「たまにある」、問題解決、肯定的再評価の対処法について「たまにある」、あるいは「よくある/非常によくある」を選択していた場合、死亡のHRが15~41%低かった。男性のこれらの関連は追跡期間にも依存していた。情緒的サポート希求と死亡率の関連は性別によって異なるという結果が認められた(P for interaction = 0.03)。結論として、日本人の大規模サンプルにおいて、ストレス対処法は死亡率と関連していた。また、情緒的サポート希求と死亡率の関係は、男女間で異なっていた。

解説

ストレスは過労死等も含めて健康に悪いことはわかっているが、では、実際にどのようなストレス対処法が健康の悪化を予防できるか、という点については、アンケートを主体とした研究が多く、疾病の発症や死亡率との関係は意外に分かっていない。この研究では5つの対処法(感情表出、情緒的サポート希求、肯定的再評価、問題解決、なりゆき任せ)をとりあげ、死亡率との関連を示している。例えば、情緒的サポート希求における質問である「身近な人・親しい人に相談し、はげましてもらう」という項目について、「たまにある」を選択した女性は「ほとんどない」を選択した女性よりも死亡率が2割程度低いという結果が得られている。「よくある/非常によくある」を選択した女性の死亡率の低下は統計的に有意でないことや、男性では情緒的サポート希求と死亡率の関連は認められなかったことなど、1つのストレス対処法をとっても、結果は複雑であり、一概にこの対処法は健康に良い、と結論を出すのは難しそうである。この研究では労働者以外の対象者も含まれており、また、単項目でストレス対処法をたずねていることなど、いくつかの限界点もあり、今後、日本人においてさらなるデータの積み重ねが必要である。

井澤 修平(いざわ しゅうへい)
記事を書いた人

井澤 修平(いざわ しゅうへい)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の上席研究員で、専門分野は精神神経内分泌免疫学、産業保健心理学、産業ストレス。早稲田大学先端科学・健康医療融合研究機構などでの職歴を持つ。現場介入チームでバイオマーカーの部分を担当し、ストレスや過重労働の生理的な影響を、唾液、毛髪、爪に含まれるホルモンなどによって評価している。モットーは「才能とは努力を継続できる力である」。オフの時間はインドア派で、TVドラマを見たり、ゲームをしたり、本を読んだりして過ごす。