船員の過労死ゼロへ:船員の疾患とその背景を知る
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【234】船員の過労死ゼロへ:船員の疾患とその背景を知る船員の過労死に関連する疾患とリスク要因

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この研究から分かった事

  • 船員の過労死等は脳・心臓疾患(脳梗塞・心筋梗塞)と精神障害(抑うつ・PTSD・適応障害)が中心
  • 漁業・運輸業に多く発生し、甲板部・船長が被災しやすい
  • 長時間労働・拘束時間の長さ・不規則勤務・心理的負荷が主要リスク要因
  • 高年齢層に多発し、搬送の遅れ(発症から1時間以内の搬送は12.1%)が重症化の一因に
  • ICTの活用や組織的な支援体制の構築が、予防・抑制に有効であると示唆

目的

平成22〜29年度に過労死等として労災認定された事案から船員に関するものを抽出。船員特有の労働環境と疾病リスクの実態を明らかにし、過労死等の予防に資する基礎情報の提供を目的としました。

方法

厚労省調査復命書に基づく労災データ5,797件から、船員法上の船員に該当する52件(脳・心臓疾患33件、精神障害19件)を抽出し、被災者の属性・業種・職種・発症疾患・負荷要因集計の集計・分類を行いました。

結果

  • 平均年齢:脳・心臓疾患 56.7歳、精神障害 45.2歳
  • 業種:漁業 53.8%、運輸業・郵便業 30.8%
  • 職種:甲板部 32.7%、船長 21.2%
  • 主な疾患:
     - 脳・心臓疾患:脳梗塞・心筋梗塞
     - 精神障害:抑うつ・PTSD・適応障害が中心
  • 負荷要因(脳・心臓):
     - 長期間の過重業務(78.8%)
     - 拘束時間の長い勤務、不規則・深夜勤務、作業環境
  • 負荷要因(精神):
     - 極度の心理的負荷(事故・災害・暴力・ハラスメントなど)
     - 対人関係の摩擦、業務量・業務内容の過重、船内トラブル
  • 救急搬送までの時間
      - 発症から1時間以内に搬送されたのは全体の12.1%

考察

  • 船員の過労死は高年齢化、長時間拘束、不規則な勤務が大きく影響
  • 閉鎖・孤立した職場環境がもたらす特有の心理的ストレスは、精神疾患の誘因
  • 業種や職種の特性に応じた柔軟な対策に加え、早期発見と迅速な搬送体制の強化が急務である
  • ICTを活用した遠隔医療・運航支援体制の整備、ハラスメント対策、メンタルヘルス支援の強化、およびサポーティブな組織風土の醸成が重要

キーワード

心筋梗塞 / 脳梗塞 / PTSD / 適応障害
拘束時間 / 不規則勤務 / 長時間労働 / ハラスメント
ICT支援 

出典

岩浅 巧・吉川 徹・高橋 正也(2024)
過労死等事案から探る船員の労働災害の実態と防止対策の検討
産業衛生学雑誌, 66(6), 314–328 https://doi.org/10.1539/sangyoeisei.2024-018-E

岩浅 巧(いわあさ たくみ)
記事を書いた人

岩浅 巧(いわあさ たくみ)

石巻専修大学経営学部准教授。専門は組織行動および健康マネジメント。東京と仙台に生活拠点を構え、ハイブリッドワークやワーケーションなど、新たな働き方の創出や職場環境の改善に取り組んでいる。理論と実践をつなぐアプローチを重視し、複数の組織で「いきいき職場づくり」の実現に向けた参加型の職場環境改善プログラムを実施。働く人々の健康と生産性の向上を目指す。