組織レベルの介入は心理社会的な職場環境、健康、労働者の定着にどの程度効果があるのか? -系統的レビューの総説-
出典論文
Aust B, Møller JL, Nordentoft M, Frydendall KB, Bengtsen E, Jensen AB, et al. How effective are organizational-level interventions in improving the psychosocial work environment, health, and retention of workers? A systematic overview of systematic reviews. Scandinavian Journal of Work, Environment & Health. 2023;49(5):315.
著者の所属機関
デンマーク国立労働環境研究センター(コペンハーゲン)
論文の内容
*目的*
本研究は、職場の心理社会的労働環境の改善、労働者の健康増進、定着率向上を目的とした「組織レベルの介入(organizational-level interventions)」の有効性について、既存のシステマティックレビューを包括的に統合し、評価することを目的とする。
*方法*
2000年~2020年の間に発表されたシステマティックレビュー(系統的レビュー)27,736件をスクリーニングし、最終的に中程度以上の質と判断された52件のレビュー(一次研究957件を含む)を対象とした。レビューの質、一貫性、対照研究の割合に基づいてエビデンスの強さを評価した。
*結果*
介入手法別のエビデンス強度について、強いエビデンス(Strong)として「勤務時間体制の変更(例:労働者にスケジュール選択権を与える)」、中程度のエビデンス(Moderate)として「 業務内容・組織体制への影響」「医療ケア手法の変更」「心理社会的労働環境の全体的改善」、弱い/不確実なエビデンスとして「 新人看護師の導入プログラム」「暴力防止策」「リーダーシップ研修(矛盾した結果)」などが確認された。また、アウトカム別のエビデンス強度について、強いエビデンスとして「バーンアウト(burnout)の軽減」、中程度のエビデンスとして「多様な健康・ウェルビーイング指標の改善」が確認された一方、不確実なエビデンスとして「ストレス低減(結果が矛盾)」「離職防止(研究数が少ない)」などがあげられた。
*考察と結論*
本研究は、組織レベルの介入が心理社会的労働環境や健康に一定の効果をもたらす可能性があることを示した。特に勤務時間の柔軟性を高める施策は、ワークライフバランスの改善やストレス軽減に寄与しうる。ただし、導入・実施プロセスの質、組織内の支援体制、従業員の巻き込みの程度によって成果が左右される点も指摘された。また、介入の「近位効果(例:職場環境の改善)」は得やすいが、「遠位効果(例:健康や定着率の改善)」は複雑で、より多層的な取り組みが求められる。今後は、効果の評価だけでなく、介入の実施過程(実装・文脈)の分析と報告も重要であると強調された。
RECORDsメンバーによる解説
本論文は、職場全体に働きかける「組織レベルの介入」が、職場の心理社会的な労働環境にどのような影響を与えるかを、幅広く評価した重要な研究です。近年、職場のストレスや燃え尽き症候群(欧米ではバーンアウトと呼ばれます)、仕事による心の不調が、働く人の健康や「仕事を続けられるかどうか」に大きく影響することが問題となっています。こうした中で、個人の努力や我慢に任せるのではなく、職場の仕組みや文化そのものを見直す「組織レベルの介入」が、より長く続く現実的な対策として期待されています。
本レビューの大きな特徴は、2000年以降に発表された52件のシステマティックレビュー(合計957件の研究)をまとめ、科学的な根拠の強さを丁寧に評価している点です。単に研究結果を並べるのではなく、レビューの質や結果の一貫性、比較対象の有無などを踏まえて、「どの程度信頼できるか」をアウトカムごとに評価しています。
特に注目されるのは、勤務時間の柔軟性、つまり働く人が自分で働く時間をある程度調整できる制度が、職場の心理社会的環境の改善に「強いエビデンス」を持つと示された点です。これは、上から一方的に管理するやり方よりも、働く人の主体性や裁量を重視した職場づくりのほうが、心の負担を軽くする効果が高いことを示しています。仕事の要求度‐コントロール(裁量)モデルは以前から知られていますが、今回のレビューでも、仕事に対する裁量の大きさが健康にとって重要であることが改めて確認されました。また、業務の進め方や組織の仕組みそのものを改善する取り組みについても、「中程度のエビデンス」が示されました。単に職場の雰囲気を良くするだけでなく、仕事の内容や進め方を見直すことが重要であることが示唆されています。さらに本レビューでは、介入の内容だけでなく、「どのように導入し、どのように運用するか」といった実施の質や、組織としての支援体制の重要性にも触れられています。どんなに良い対策であっても、現場にうまく根付かなければ効果は十分に発揮されません。今後は、対策の中身だけでなく、その実施過程や組織の状況も含めて評価していくことが、より重要になると考えられます。
RECORDsでも過労死等を防止するための組織的な介入に関する研究が進められています。本論文の知見を踏まえ、日本の労働文化や職場の実情に合った形で職場環境の改善を進め、過労死等の防止につながる研究と実践が今後さらに発展することが期待されます。