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目次

職場の疲労カウンセリングとは?

(クリックすると疲労カウンセリングガイドのダウンロードフォームが立ち上がります)

現場の声から始める、オーダーメイドの疲労対策

疲労対策というと、「よく寝る」「運動する」など、働く人自身の工夫が思い浮かびがちです。しかし、長時間労働、休憩の取りにくさ、夜勤の並び方、業務の偏りなど、疲労の原因が働き方や職場環境にある場合、個人の努力だけでは十分に改善できません。そこで、現場の声を聴き、職場で話し合い、実行した対策を振り返るのが「職場の疲労カウンセリング」です。

「疲れ」は、休む必要を知らせるサイン

私たちが日常的に感じる疲労は、病気に伴うものを除けば、休憩、勤務後の余暇、睡眠などによって回復に向かうと考えられています。言い換えれば、疲労は「そろそろ休む必要がある」と知らせるサインです。

一方、仕事の負担が回復力を上回る状態が続くと、休日や睡眠をとっても回復しにくい「過労」へ移行するおそれがあります。過労は、本人の健康や生活の質だけでなく、仕事上のミス、事故、コミュニケーションの悪化、生産性の低下にもつながり得ます。だからこそ、疲労を個人だけの問題にせず、同じ条件で働く人たちに共通する課題として捉え、職場の仕組みを改善する視点が重要です。

職場の疲労カウンセリングとは

職場の疲労カウンセリングは、従業員への聞き取りなどから、その職場に特有の疲労要因と改善ニーズを把握し、職場の関係者が実行可能な対策を一緒に考え、効果を確認していく参加型の職場改善手法です。科学的な知見をそのまま当てはめるのではなく、業種、勤務体制、人員、設備、職場文化などに合わせて、現場で続けられる形に調整する点が特徴です。

名称に「カウンセリング」とありますが、個人の病気を診断したり、心理療法を行ったりするものではありません。目的は、従業員の声を職場の改善策へつなげることです。強い体調不良や睡眠障害、抑うつ症状などがある場合は、この取り組みとは別に、産業医や医療機関などの専門家へ相談してください。

3つのサイクルで進めます

図1 職場の疲労カウンセリングの基本サイクル(Listening-Dialogue-Check)

1  Listening | 従業員の声を聴く

疲れやすい仕事、時間帯、勤務の組み合わせ、職場環境などを聞き、その職場に共通する問題と改善のヒントを探します。数名への面談から始めても、匿名のWebアンケートを使って広く意見を集めても構いません。交代勤務の職場では、実際の勤務表を見ながら尋ねると具体的な話を得やすくなります。

◇ 聞き取りの質問例

  • 仕事で特に疲れるのは、どのようなときですか?
  • 同じことで困っている同僚はいますか?
  • 何が変われば、疲れを回復しやすくなると思いますか?

聞き取りの前に、目的、回答の使い方、個人が不利益を受けないことを説明します。匿名アンケートを使う場合も、自由記述から個人が推測されないよう、共有方法に配慮しましょう。


以下は職場の安全衛生委員会の開催前に匿名のWEBアンケートで尋ねる例になります。

◇ WEB意見箱を作る際の説明文の例

月一回開催されている職場の安全衛生委員会において議題にあげて欲しいことを教えてください。本委員会では職場の安全と健康の問題について議論しています。自分の職場の安全衛生の向上に重要な議題で、かつ、委員会の場で発言することが相応しいと考えられるものについて委員会で議論したいと思います。回答は無記名なので、記入した方がどなたなのかは分からない設定です。しかし、名前を出して後日、詳しく伝えたいと言う方は回答欄にお名前をご記入いただいても結構です。いずれにしても、委員会で議題に上げる際は意見を頂いた方の不利益にならないように個人が特定されない形で委員会にあげたいと思います。WEBアンケートに記入したくない方は下記の担当者まで直接、教えていただいても結構です。

2  Dialogue | 対策を話し合う

集まった意見を、安全衛生委員会(衛生委員会)など、実際に判断・実行できる場で検討します。従業員、管理者、産業保健スタッフ、人事労務担当者など、異なる立場から話し合うことで、原因を一方向から決めつけず、実行可能な対策へ具体化できます。

検討するときは、①安全・健康上の緊急性、②影響を受ける人数、③実行しやすさと費用、④公平性、⑤新たな負担やリスクが生じないか、という観点で優先順位をつけます。「すぐにできる対策」と「制度変更や設備投資が必要な中長期対策」に分けると、話し合いだけで終わりにくくなります。

3  Check | 効果を見える化する

対策を実施したら、「予定どおり実施できたか」と「疲労や働き方がどう変わったか」を確認し、結果を職場へ返します。評価方法は高価な機器に限りません。残業時間、夜勤回数、休憩取得状況、短い疲労アンケートなど、目的に合う指標を1~2個選び、実施前と実施後を比べるだけでも役立ちます。RECORDsの「職場の疲労に関する測定ツール」やポータルサイトで無償提供している「疲労checker簡易版」や「過労徴候しらべ」調査票もお役に立つかと思います。

また、効果が十分でなかった場合も失敗ではありません。意見をもう一度聴き、対策を調整する材料になります。集計や分析の負担が大きい職場は、まずListeningとDialogueだけから始めても構いません。

職場で始めるための5つの準備

準備実施のポイント
1.担当者を決める

産業保健スタッフ、人事労務担当者、安全衛生管理者などから進行役を決めます。外部の専門家がいなくても始められます。

2.対象を絞る

最初は「ある部署の休憩」「特定の勤務パターン」など、範囲を小さく設定します。

3.声を安全に集める

面談か匿名アンケートを選び、目的、守秘、共有範囲を事前に伝えます。非正規職員や派遣職員など、課題の影響を受ける人を取りこぼさないことも大切です。

4.対策を1つ決める

担当者、実施時期、必要な調整、確認する指標を決めます。すべての要望に一度に対応しようとせず、優先順位を示します。

5.振り返り日を決める

1~2か月後など、実施前に確認日を設定します。結果と次の対応を従業員へ返し、改善のサイクルを続けます。

小さな改善も、立派な疲労対策です

職場の疲労対策は、大きな制度変更に限りません。また、直接的に疲労に結びつかないようなことでも、従業員の職場環境が改善されることは結果的に疲労やストレスの問題に結びつきます。職場の疲労カウンセリングの実践例としては、匿名のWeb意見箱から「派遣職員用の防災ヘルメットがない」という声が寄せられ、余っていたヘルメットの配布と共用場所への設置につながった事例があります。また、「職場の周辺に店がなく、食事に困る」という声から、導入費がかからず電子決済に対応したオフィスコンビニを導入した例もあります。

どちらも、すべての疲労問題を一度に解決する対策ではありません。しかし、自分たちの声が扱われ、職場が実際に少し変わる経験は、次の意見を出しやすくし、職場改善に一緒に取り組む雰囲気づくりにもつながります。

研究事例:勤務時間を増減せず、休日の配置を変える

交代勤務看護師を対象とした研究では、聞き取りによって、連続する深夜勤務から準夜勤務へ移る勤務の並びが疲れやすいことが分かりました。そこで、連続深夜勤務の後に休日を置き、次の勤務までの間隔を31時間から55時間へ延ばすシフトを現場と協議して作成しました。

30人が参加した4か月間の比較では、月の休日日数と総労働時間を変えずに休日の位置だけを変えた結果、従来シフトと比べて疲弊度が低下し、その差は2か月目により明確になりました。研究終了後も、この病棟では新しいシフトが継続されました。現場の声をもとにしたため、無理のない形で実装できた事例と考えられます。ただし、この結果が勤務体制の異なるすべての職場にそのまま当てはまるわけではありません。

図2 連続夜勤後に休日を廃止し、勤務間インターバルを延ばした介入研究

研究事例:現場のニーズをAIシフトへ反映する

交代勤務の介護職員を対象とした別の研究では、事前の聞き取りから、①勤務開始時刻が早まっていく逆循環を避ける、②連続勤務を減らす、③勤務間インターバルを確保する、④夜勤後に休日を確保する、という4つのニーズが抽出されました。これらをAI勤怠スケジューラーの条件に組み込み、従来の手作業シフトと比較しました。

35人が参加した4か月間の研究では、AIシフトで逆循環が減り、指輪型デバイスで測定した深い睡眠とレム睡眠が統計的に増加しました。一方で、主観的な眠気・疲労感や反応時間検査には明確な差がなく、睡眠の増加量も大きなものではありませんでした。この結果は、AIを導入すれば自動的に疲労問題が解決するという意味ではありません。重要なのは、現場の改善ニーズを対策の条件に組み込んだことです。

図3 現場のニーズをAIで交代勤務シフトに反映させた介入研究

まずは「声を聴く」ことから

職場の疲労カウンセリングで最も大切なのは、立派な調査や高価な測定機器ではありません。そこで働く人が「いつ、何によって疲れ、何が変われば回復しやすいのか」を聴き、実際の職場改善へつなげることです。

初めから3つのサイクルを完璧に行う必要はありません。まず数人に話を聴く、匿名アンケートを1回行う、安全衛生委員会で1つの課題を取り上げる。その小さな一歩から、職場に合った疲労対策を始めてみませんか。

参考資料・出典

  1.  職場の疲労カウンセリングとは?現場ニーズに基づく「オーダーメイド疲労対策」の重要性
  2.  Kubo T, et al. Shift-Work Schedule Intervention for Extending Restart Breaks after Consecutive Night Shifts. Int J Environ Res Public Health. 2022;19(22):15042.
  3.  Kubo T, et al. A Participatory Artificial Intelligence Driven Shift-Scheduling Application for Improving Sleep Among Shift-Working Caregivers. Journal of Sleep Research.2026;35(1):e70144.
  4.  現場とAIの対話でつくる健康で眠れる交代勤務
久保 智英(くぼ ともひで)
記事を書いた人

久保 智英(くぼ ともひで)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の上席研究員で、専門分野は産業保健心理学、睡眠衛生学、労働科学。労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所の他、産業医科大学での職歴を持つ。フィンランド国立労働衛生研究所での客員研究員としての活動も経験。モットーは「やってやれないことはない、やらずにできる訳がない」。研究のイロハを教えてくれた師匠たちを尊敬している。