現場とAIの対話でつくる健康で眠れる交代勤務:AI勤怠スケジューラーによる4か月間の介入調査

【アイキャッチ】273
目次

インフォグラフ

【273】AIの導入で交代勤務に従事する介護者の睡眠が改善した

(クリックするとインフォグラフのダウンロードフォームが立ち上がります)

この研究から分かった事

現場のニーズを反映した人工知能(AI)によるシフト作成が、従業員の睡眠の質(特に深い睡眠とレム睡眠)を改善させることが客観的指標によって示されました。

目的

現場の改善ニーズを反映させたAIによるシフト管理が、従来の手動による管理と比較して、睡眠の質や疲労度を改善させる効果があるかを客観的に調査することを目的としています。

方法

介護職員を対象にAIによるシフト作成が睡眠に与える影響を4ヶ月間検証しました。
まず、事前の職場の疲労カウンセリングを実施しました。ここで抽出された「逆循環(後退ローテーション)の回避」「連続勤務の削減」「勤務間インターバルの確保」「夜勤後の休日確保」という4つの具体的な現場のニーズを4つ特定し、AIシフト作成ソフトにアルゴリズムのルールとして組み込みました。
実験では、AI作成シフトと従来の手動シフトを2ヶ月ずつ入れ替えて勤務する「クロスオーバー比較試験」を採用し、個人差や時期の影響を排除した信頼性の高いデータを収集しました。
測定には指輪型デバイス「オーラリング」を用い、深い睡眠やレム睡眠などの生理的データを収集し、併せてスマホアプリ(疲労checker)で主観的な眠気や反応速度も記録し、分析しました。

※逆循環(または後退ローテーション、後方回転)とは、シフト勤務において勤務の開始時間が時計の針と反対の方向に、徐々に早まっていく勤務パターン

結果

1.睡眠の質の向上

従来の手動作成シフトと比較して、AI駆動のシフトでは以下の改善が確認されました。

  • 身体の回復に重要な「深い睡眠」と、ストレス管理に関わる「レム睡眠」の時間が統計的に有意に増加しました。統計的な有意差はありませんでしたが、総睡眠時間も増加傾向でした。
  • スマートフォンアプリを用いて測定した主観的な眠気・疲労感、行動的パフォーマンス、客観と主観の乖離の指標については、介入による有意な差は認められませんでした。

2. 睡眠を悪化させる「有害なシフトパターン」の特定

どのようなシフトの組み合わせが睡眠に悪影響を与えるかを数値化できました。

  • 「遅番ー遅番」の組み合わせが月に1回増えるごとに、総睡眠時間が約17分減少し、睡眠時間が約6分減少し、睡眠効率が2.6%低下し、深い睡眠も約6分減少することがわかりました。
  • 勤務開始時間が早まっていく「逆循環」は、寝付き(入眠潜時)を約30〜1分弱秒長くさせ、睡眠の質を悪化させることが確認されました。

3.シフト管理の最適化

AIの導入により、勤務スケジュール自体の適正化と管理業務の効率化が可能になりました。

  • 4つのニーズのうち「逆循環」の回数が統計的に有意に減少しました。
  • 遅番の連続(LLシフト)」の回避により、日勤時の睡眠改善が見られました。

考察

AIによるシフトによる睡眠の質が改善した背景には、物理的な調整だけでなく心理的要因も寄与しています。心理的要因としては、次の3つが考えられます。

1.公平性と納得感の向上

AIによる自動作成で、手動作成時に生じがちな「えこひいき」という疑念を解消し、公平性と透明性が担保され、心理的な納得感を得ることができました。

2.裁量権の取得

匿名性の高いアプリでの個人申請によりプライバシーが守られ、周囲の目を気にせず休みを希望できるシステムを構築したことで、勤務時間への裁量権の認識を高めました。

3.ニーズの反映

事前に「職場の疲労カウンセリング」を行い、現場の声をヒアリングデータから得たニーズをAI駆動シフトスケジュールに組み込んだことで、「自分たちの声が反映されたオーダーメイドの対策である」という満足感を得られました。

まとめ

遅番の連続や逆循環といった特定の勤務が睡眠を悪化させるのは、短時間での「仕事からの精神的離脱」が難しいためです。運動などの介入と異なり、追加の努力なしに効果が得られるシフト改善は実現性が高く、現場の声を拾う「参加型アプローチ」こそが実効性のある疲労対策であると言えます。
また、副次的な効果として、管理者のシフト作成時間を大幅に削減できることも示唆されています。

キーワード

人工知能、介護者、職業性疲労、カウンセリングアプローチ、シフト勤務、ウェアラブルデバイス、勤務時間管理

出典

Kubo T, Matsumoto S, Nishimura Y, Ikeda H, Izawa S, Sato F. A Participatory Artificial Intelligence Driven Shift-Scheduling Application for Improving Sleep Among Shift-Working Caregivers: A 4-Month Non-Randomised Controlled Study With Cross-Over Design. Journal of Sleep Research. 2025;35(1).DOI: https://doi.org/10.1111/jsr.70144

参考資料

【令和5年度】 職場の疲労特性を反映したAI 勤怠スケジューラーによる 交替勤務介護労働者への介入調査 | 過労死等防止調査研究センター(RECORDs)

久保 智英(くぼ ともひで)
記事を書いた人

久保 智英(くぼ ともひで)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の上席研究員で、専門分野は産業保健心理学、睡眠衛生学、労働科学。労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所の他、産業医科大学での職歴を持つ。フィンランド国立労働衛生研究所での客員研究員としての活動も経験。モットーは「やってやれないことはない、やらずにできる訳がない」。研究のイロハを教えてくれた師匠たちを尊敬している。