日本人男性労働者における管理職への昇進が精神的健康と満足度に及ぼす影響
インフォグラフ
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この研究から分かった事
・管理職に昇進すると2年の遅れでメンタルヘルスの悪化が確認されました。
・管理職への昇進が、メンタルヘルスに与える影響の詳細を検討したところ、-の面のみでなく、+の側面も存在することが確認されました。
・昇進直後の労働者のメンタルヘルスに-面の発生を抑えるような労務管理が重要となる可能性が示唆されます。
目的
管理職者とその他の労働者を比較すると、管理職者ほどメンタルヘルス等の状況が良いことが先行研究で確認されていました。ただ、過労死の認定基準において昇進は、心理的負荷のある出来事として設定されています。
管理職への昇進が精神的健康と満足度に及ぼす影響を、新規に管理職に昇進した労働者に絞り込むことで、効果の推定を目的としました。
方法
○ 全9社に勤める日本人男性労働者の4年間の同一個人への繰り返し質問を行ったアンケートデータ(北里大学のJ-HOPE)を利用しました。
○ 新規に管理職に昇進した労働者に絞り込む為、管理職からその他就業形態に移行した個人とデータ取得の第1期から管理職者であり続けた個人を解析データから除き、以下の2群を解析対象として定義しました。
- 非昇進群(統制群): 非管理職であり続ける者
- 昇進群(処置群):データ期間内(2-4期)に新規に管理職に昇進した者
○ 両群で合計1,454人の個人を4年間追跡されたデータを利用しました。
○ メンタルヘルスとして、抑うつ不安傾向を示すK6スコア、仕事と生活の満足度をアウトカム変数として利用しました。
○ 各群のメンタルヘルスの経年の推移の差を比較する、二元固定効果推定(two way fixed effect)※と呼ばれる手法(厳密にはその近年修正提案された手法)を利用して効果の検討を行いました。
○ また、メンタルヘルスに対する効果の詳細を明らかにする為に、データとして取得できて先行研究でメンタルヘルスに影響を及ぼすことが確認された状況に対して、管理職への昇進が及ぼす影響を、+(例:給料の増加、裁量度の増加)と-(例:仕事の要求水準の増加、労働時間の増加)の両側面に分けて影響を検討しました。
※ 二元固定効果推定(two way fixed effect)
多くの解析では、以下の2つの変動要因の説明可能性を否定できなくなります。
- 個人変動要因: 管理職者になれるような個人とその他個人で、メンタルヘルスの水準が大きく異なる
- 時間変動要因:調査時期の前後がたまたまCOVID-19によってメンタルヘルスの変動が大きな年の調査であった
時間変動要因は、単なる前後比較を行っても解決不能なことがほとんどです。
二元固定効果推定では、経年の推移の差を比較することでこれらの変動要因の影響を抑えて、より妥当性を持って因果に近しい効果を推定できます。
結果
管理職に昇進すると、2年遅れでメンタルヘルスが悪化することが示されました。メンタルヘルスに影響を及ぼすメカニズムとなり得る事項をアウトカムとした推定から、-の側面として労働時間が増加すること、+の側面として職務内容の明確性が向上することが統計的有意差を持って確認されました。
また、昇進群のメンタルヘルスの水準は非昇進群よりも良好であるという先行研究と同様な傾向が確認され、管理職への昇進の発生前の経年のメンタルヘルススコアの推移は概ね似通っていることが確認されました。
考察
これらの結果は、データとして確認できなかった側面も含めて考えたとき、-の側面が及ぼす影響が+の側面が及ぼす影響よりも長続きした可能性が考えられます。昇進直後の労働者への-面の発生を抑えるような労務管理が、管理職への昇進がメンタルヘルス的にネガティブな出来事と認識されている現状を変える可能性を秘めているという意味で、重要となる可能性が示唆されました。
キーワード
管理職、昇進、メンタルヘルス、固定効果推定
出典
Kashima, R., Takahashi, M. Causal effects of promotion to managerial positions on mental health and satisfaction in Japanese male workers. Int Arch Occup Environ Health 98, 79–98 (2025). https://doi.org/10.1007/s00420-024-02113-8
