長時間労働、夜勤、週末出勤、勤務間インターバルが労働者のメンタルヘルスに及ぼす影響-日本企業の勤怠データを用いた検証
出典論文
Sato, K., Kuroda, S., & Owan, H. (2020). Mental health effects of long work hours, night and weekend work, and short rest periods. Social Science & Medicine, 246, 112774.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0277953619307695
著者の所属機関
国士館大学、早稲田大学
内容
長時間労働を始めとする働き方とメンタルヘルスの関係を検証した研究は多いですが、測定誤差や脱落バイアスなどの問題を考慮した研究は十分に蓄積されていません。
本研究は、某日本製造業企業に勤務しているホワイトカラー労働者1,334名とブルーカラー労働者786名を対象として、2015年と2016年に2回質問紙調査を行いました。質問紙調査前の2か月間の勤怠データを用いて、働き方を反映する4種類の勤務スケジュール指標:①残業時間(標準労働時間7:55を超える分、2か月間の累計残業時間数)、②深夜勤務時間(24時以降から終業まで、2か月間の累計深夜勤務時間数)、③勤務間インターバル11時間未満の頻度、④週末勤務の頻度(土日に働いた回数)を作りました。その後、勤務スケジュール指標と質問紙調査データで2期のパネルデータを構築し、観測不能な個人属性を考慮した上で、勤務スケジュールとメンタルヘルスとの関係を検証しました。
この企業に勤めるホワイトカラー労働者とブルーカラー労働者の勤務形態が異なるため、両者を分けて分析を行いました。分析結果からは、ホワイトカラー労働者では、残業時間とメンタルヘルスとの有意な関連が確認されました。また、労働時間の総量と2か月間の労働日数の影響を統計的に調整しても、週末勤務はメンタルヘルスに悪影響することが示唆されました。さらに、同じ1時間の残業であっても、週末にするのか、平日にするのかで、メンタルヘルスとの関連が異なりました。メンタルヘルスへの悪影響は、週末残業が平日残業の1.5倍から2倍程度大きいことが確認されました。ブルーカラー労働者では、深夜勤務のみにメンタルヘルスとの有意な関連が見られました。11時間未満の短い勤務間インターバルの頻度は、ホワイトカラー労働者、ブルーカラー労働者共に、メンタルヘルスとの有意な関連が認められませんでした。
解説
この研究は「いつ働くか」(勤務時間帯や曜日)に着目することで、労働時間の総量だけではない、包括的な検証がなされています。また、測定誤差やサンプル脱落が少ない人事パネルデータを用いることで、観測不能な個人属性の影響を統計的に調整し、厳密な検証ができていることが特徴です。
研究の限界は以下の4点があります。
1企業のデータのみを使って分析しているため、研究結果の一般性が欠けています。
著者らも指摘したように、短い勤務間インターバル頻度とメンタルヘルスとの関連を確認できなかったのは、この企業に過度な長時間労働をしている労働者がほとんどいなかったことが影響している可能性があります。
この研究では、メンタルヘルス尺度ではなく、従業員に「ご自身のメンタルヘルスをどう評価しますか」の1問のみで評価しています。
推定手法に関して、計量経済学の固定効果モデルを用いることで、回答傾向、性格、先天的能力などの観測不能な個人属性の影響を調整することで、内生性の問題が大幅に軽減されましたが、時間とともに変化する要因を調整できていません。
働き方とメンタルヘルスとの関連については、今後さらに多くの企業データを用いて、多様な働き方を検証する必要があります。