余暇と勤務中の身体活動が心血管疾患と死亡リスクに及ぼす影響

余暇と勤務中の身体活動が心血管疾患と死亡リスクに及ぼす影響
目次

出典論文

Holtermann A, Schnohr P, Nordestgaard BG, Marott JL. The physical activity paradox in cardiovascular disease and all-cause mortality: the contemporary Copenhagen General Population Study with 104 046 adults. Eur Heart J. 2021 Apr 14;42(15):1499-1511. DOI: 10.1093/eurheartj/ehab087

著者の所属機関

デンマーク国立労働衛生研究所(National Research Centre for the Working Environment, Denmark)

内容

本研究では、104,046人を対象に2003年から2014年の間にベースライン調査を実施したコペンハーゲン一般人口調査(Copenhagen General Population Study)のコホートデータを用いて、余暇と勤務中の身体活動が心血管系イベント(心筋梗塞、脳卒中、その他冠動脈関連死亡)と死亡リスクに及ぼす影響を検討した。身体活動に関しては、余暇中と勤務中の両方について自己報告の質問紙を使用して評価した。余暇中の身体活動は、以下の4つの選択肢:①低強度の身体活動が週に2時間未満、②低強度の身体活動が週に2~4時間、③週に4時間以上の低強度身体活動、または週2~4時間の高強度身体活動、④週に4時間以上の高強度身体活動、に基づいて評価され、一方、勤務中の身体活動は、以下の4つの選択肢:①主に座り仕事、②座り仕事または立ち仕事、時々歩き仕事、③歩いたり、時々持ち上げる仕事、④重い手作業、に基づいて評価された。死亡に関する情報は、デンマーク死亡登録簿から収集した。コックス比例ハザード回帰分析を用いて、年齢、性別、BMI、喫煙、教育年数、糖尿病、血圧、食事の好みなど生活習慣に関係する様々な要因を調整したハザード比(HR)を求めた。

心血管系イベントのHR(95%信頼区間)は、余暇中の身体活動量が最も少ない群を基準にした時、中程度で0.86(0.78-0.96)、高程度で0.77(0.69-0.86)、非常に高い程度で0.85(0.73-0.98)となり、余暇中の身体活動が多いほど心血管系イベントのリスクが低くなった。一方、勤務中の身体活動量が最も少ない群を基準にした時、中程度で1.04(0.95-1.14)、高程度で1.15(1.04-1.28)、非常に高い程度で1.35(1.14-1.59)となり、勤務中の身体活動が多いほど心血管系イベントのリスクが高くなった。全死因死亡のHRは、余暇中の身体活動が中程度で0.74(0.68-0.81)、高程度で0.59(0.54-0.64)、非常に高い程度で0.60(0.52-0.69)となり、余暇中の身体活動が多いほど死亡リスクが低くなった。一方、勤務中の身体活動が中程度で1.06(0.96-1.16)、高程度で1.13(1.01-1.27)、非常に高程度で1.27(1.05-1.54)となり、勤務中の身体活動が多いほど死亡リスクが高くなった。心血管系イベントリスク(p=0.40)と全死因死亡リスク(p=0.31)に関して、余暇と勤務中の身体活動間に交互作用は見られず、余暇中の身体活動レベルを問わず、勤務中の身体活動レベルが高いほど心血管系イベント及び死亡のリスクが高くなることが示された。これらのことから、余暇中の身体活動と勤務中の身体活動は、心血管系イベントと全死因死亡リスクに独立して関連する可能性が示唆された。

解説

過重労働による脳・心臓疾患の予防策を考える上で、労働時間や睡眠時間(休息)は仕事の負担と疲労回復の観点から注目されてきた。しかし、本論文は、個人の仕事の負担を評価する際に、時間だけではなく仕事中の身体活動の強度も重要な要因である可能性を示唆している点で、非常に興味深い。これまでの多くの疫学研究で、余暇中の身体活動が心血管疾患や死亡リスクの予防に有効であることは広く認識されている。しかし、近年、勤務中の身体活動が多いと死亡リスクが高まる可能性が指摘され、余暇と勤務中の身体活動が健康に及ぼす影響が異なる「Physical Activity Paradox」という新しい概念が注目されている。大規模コホートデータを用いた今回の論文では、余暇中の身体活動が多いほど死亡率が40%低下する一方、勤務中の身体活動が多いほど死亡率が27%増加することが示され、この結果は、「Physical Activity Paradox」を裏付ける高いレベルのエビデンスと言える。

日本の労働者は24時間のうち約4割以上を仕事に費やし、1日の身体活動の約5割が勤務中に発生していること(So et al., JSPFSM, 2018)を踏まえると、北欧・欧米とは異なる労働環境や働き方が存在するアジア地域、特に日本の労働者を対象に勤務中の身体活動が健康に及ぼす影響を検討することは重要である。今後は、仕事に伴う身体的負荷としての身体活動もリスクアセスメントの一要因として捉えた研究が必要であると考えられる。

蘇 リナ(そ りな)
記事を書いた人

蘇 リナ(そ りな)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の主任研究員で、体力科学チームに所属。専門分野はスポーツ医学、体力医学、労働衛生。労働者の体力(身体的体力や精神的体力)および身体活動に着目した疫学調査・介入研究を行っている。主要な職歴としては、筑波大学スポーツ医学専攻のティーチングアシスタント、茨城県結城市結城看護専門学校の非常勤講師、日本学術振興会の特別研究員など。研究者になったきっかけは、大学院での研究を通じて、自分の研究が社会に貢献できると感じたから。