勤務中の座りがちな時間を立ち・歩きに変えて、健康を守る

勤務中の座りがちな時間を立ち・歩きに変えて、健康を守る
目次

インフォグラフ

労働者の座位時間をWLAQで評価した疫学調査労働者の座位時間をWLAQで評価した疫学調査

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この研究から分かった事

・勤務中の長時間座位行動は健康リスクと関係があり、特に、勤務中の座位時間が長いほど、糖尿病や脂質異常症のリスクが高まることが示された。

・勤務中の座位時間を立ち・歩行時間に置き換えることで、健康リスクを減少させる可能性が示された。

・勤務中の身体活動の置き換え効果は、特に運動習慣がない労働者に顕著であった。

目的

働く人の睡眠時間や勤務時間などの生活時間に加えて、座位時間の評価を目的として私たちが開発した「労働者生活行動時間調査票(Worker’s Living Activity-time Questionnaire(JNIOSH-WLAQ)、以下「WLAQ」)」を用いて、勤務中の座位行動が健康リスクに与える影響を検討した。また、勤務中の座位行動を立位や歩行に置き換えることがどのような影響を及ぼすのかについても検討した。

方法

総務省の労働力調査(平成27年)に基づき、性別、年齢層、業種(産業)別の構成比を反映して割り当てられた1万人の国内在住労働者を対象に、疫学調査(web調査)を実施した。調査項目には、WLAQのほか、基本属性(年齢・性別)、雇用形態(深夜交代勤務の有無等)、業種、生活習慣(飲酒・身体活動・食習慣)、過去1年間の既往歴および服薬情報が含まれた。最終的に9,524人のデータを分析し、勤務中座位時間の多寡と健康リスクとの関係を調べた。勤務中の座位行動と立ち・歩行への置き換え効果については、Isotemporal substitution model(ある行動の時間を等量の別の行動の時間に置き換えた際の影響を推定する統計手法)を用いて分析した。

結果

勤務中の座位時間が最も短い群(3.8 時間未満)を基準にした場合、勤務中の座位時間が最も長い群(7.7 時間以上)で、糖尿病のリスクが1.41倍(95%信頼区間CI 1.07-1.86)、脂質異常症のリスクが1.50倍(95%信頼区間 1.19-1.89)と有意に高まることが示された。また、勤務中の1時間の座位行動を立ち・歩行に置き換えた場合、脂質異常症のリスクが4%、心血管疾患のリスクが7%軽減する可能性が示され、この結果は運動習慣がない労働者でより顕著であった。

考察

この研究では、勤務中の長時間座位行動が健康に悪影響を及ぼすことが明らかになった。さらに、勤務中の座位時間を立ち・歩行時間に置き換えることで、脂質異常症や心血管疾患のリスクが軽減される可能性が示された。この効果は、特に運動習慣がない労働者において顕著であり、運動習慣がない労働者は、わずかな身体活動でも健康に良い影響を及ぼす可能性があると考えられる。

本研究の結果は、職場での健康促進策として、定期的に立ち上がりや歩行を促進することの有効性を示唆するものである。今後は、勤務中の座位行動を減らすための職場環境の改善や、立ち・歩き行動を促進する介入研究を含む、さまざまな角度からの検討が必要である。

キーワード

キーワード座位行動、身体活動、健康リスク、運動習慣、WLAQ

出典

Rina So, Tomoaki Matsuo, Takeshi Sasaki, Xinxin Liu, Tomohide Kubo, Hiroki Ikeda, Shun Matsumoto, Masaya Takahashi. (2018). Improving health risks by replacing sitting with standing in the workplace. The Journal of Physical Fitness and Sports Medicine, Vol.7, No.2, pp.121-130. https://doi.org/10.7600/jpfsm.7.121

Rina So, Tomoaki Matsuo. (2021). Validity of Domain-Specific Sedentary Time Using Accelerometer and Questionnaire with activPAL Criterion. Int J Environ Res Public Health, Vo.18, No.23, pp.12774.
https://www.mdpi.com/1660-4601/18/23/12774

蘇 リナ(そ りな)
記事を書いた人

蘇 リナ(そ りな)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の主任研究員で、体力科学チームに所属。専門分野はスポーツ医学、体力医学、労働衛生。労働者の体力(身体的体力や精神的体力)および身体活動に着目した疫学調査・介入研究を行っている。主要な職歴としては、筑波大学スポーツ医学専攻のティーチングアシスタント、茨城県結城市結城看護専門学校の非常勤講師、日本学術振興会の特別研究員など。研究者になったきっかけは、大学院での研究を通じて、自分の研究が社会に貢献できると感じたから。