コルチゾール濃度を測定することでストレス度を把握する
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この研究のまとめ
・コルチゾールは副腎皮質から分泌されるホルモンであり、ストレスに対して上昇することから“ストレスホルモン”といわれています。
・最近の研究では、毛髪には過去数か月にわたって分泌されたコルチゾールが含まれていることがわかっており、慢性ストレスのバイオマーカーとして多くの研究で利用されています。
・私たちの研究では、手の爪にも同様にコルチゾールが含まれることがわかっています。爪試料についての研究はまだ数は少ないものの、毛髪試料と比較してアクセシビリティが高いため、今後の過労死の研究での利用が期待されています。
ストレスホルモン
私たちは、ストレスの生理学的な評価法の一つとして、 “ストレスホルモン”として知られているコルチゾールに注目して研究を行っています。コルチゾールは副腎皮質から放出されるステロイドホルモンであり、唾液から測定することが可能です。ストレスの負荷をかけると(たとえば、人前でスピーチをさせるなど)、その値は10分–20分ぐらいの間に2–3倍に増加することが知られています。コルチゾールは、様々な疾患との関連も長年研究されており、ストレスと身体的・精神的健康を結びつける重要なホルモンと考えられます。
毛髪のコルチゾール
最近では、毛髪に含まれるコルチゾールについて注目が集まっています。毛髪は生成される際にケラチンにコルチゾールも取り込まれることがわかっています。毛髪は1か月で約1センチ伸びるので、例えば、根元から3センチ部分の毛髪のコルチゾールを測定すれば、最近3か月のコルチゾールを評価できると考えられています。職場のストレスに関連した研究はまだ少ないですが、例えば、失業している人、シフトワークに従事している人では値が高いことが報告されています。ただし、毛髪は、ヘアダイや洗髪などによって組織が損傷するとコルチゾール値が低くなることがわかっており、また、コルチゾールを評価する際には、数十本の毛髪を後頭部からハサミで切って採取する必要があるため、これらの点には考慮が必要です。
爪のコルチゾール
また最近の私たちの研究では、手の爪からも同様にコルチゾールの評価をできることがわかっています。たとえば、2週間のばした爪であれば、過去の2週間分のコルチゾールを評価できると考えられます。爪は生成されてから先端にのびるまでに数か月かかることから、その値は数か月前の状態を反映していると考えられています。爪は毛髪よりも採取が簡単であり、郵送でも回収できるため、汎用性がより高い試料です。職場のストレスイベントを過去に経験している人では爪のコルチゾールが高いことも報告されています。しかしながら、研究数はまだ少なく、わかっていないことも多い状況です。現在、私たちは大規模な労働者の集団を対象に爪を採取して、コルチゾールを測定する研究を実施しており、今後、さらに爪のコルチゾールに関する知見を発信してく予定です。
まとめ
毛髪や爪の試料からは、過去、数週間から数か月にわたって体内で蓄積されたコルチゾールを評価できます。一過性のストレスよりは慢性的なストレスが健康を害することを考えると、過労死の研究を進めていくうえで、毛髪や爪の試料はとても有用なツールになると考えられます。
キーワード
ストレス、コルチゾール、毛髪、爪
出典
◇文献レビュー
井澤修平, 三木圭一 (2017). 毛髪・爪試料を利用した慢性的・蓄積的なストレスホルモン分泌の評価:産業ストレス研究における展望. 産業ストレス研究, 24, 213-218.
◇妥当性を調べた研究
Shuhei Izawa, Keiichi Miki, Masao Tsuchiya, Takeshi Mitani, Toru Midorikawa, Tatsuya Fuchu, Taiki Komatsu, Fumiharu Togo. (2015). Cortisol level measurements in fingernails as a retrospective index of hormone production. Psychoneuroendocrinology, 54, 24-30. https://doi.org/10.1016/j.psyneuen.2015.01.015
Nagisa Sugaya, Shuhei Izawa, Namiko Ogawa, Kentaro Shirotsuki, Shusaku Nomura. (2020). Association between hair cortisol and diurnal basal cortisol levels: a 30-day validation study. Psychoneuroendocrinology, 116 104650.
https://doi.org/10.1016/j.psyneuen.2020.104650
◇ストレスや心疾患との関連を調べた研究
Shuhei Izawa, Ko Matsudaira, Keiichi Miki, Mayumi Arisaka, Masao Tsuchiya. (2017). Psychosocial correlates of cortisol levels in fingernails among middle-aged workers. Stress, 20(4), 386-389. https://doi.org/10.1080/10253890.2017.1342808
Shuhei Izawa, Keiichi Miki, Masao Tsuchiya, Haruyo Yamada, Masatoshi Nagayama. (2019). Hair and fingernail cortisol and the onset of acute coronary syndrome in the middle-aged and elderly men. Psychoneuroendocrinology, 101 240-245.
https://doi.org/10.1016/j.psyneuen.2018.11.021