デンマークの働き方に学ぶ(冬編)

みなさん、God eftermiddag!
デンマーク労働環境研究センター(Denmark National Research Centre for the Working Environment、NFA)で在外研究員をしていた蘇リナと申します。現在は日本に帰国し、新年度の始まりである4月。冬の寒さが名残惜しく感じられる春の空の下で、この文章を書いています。
2024年夏に公開した「デンマークの働き方に学ぶ(夏編)」では、コペンハーゲンでの生活やライフスタイルについてご紹介しました。本記事ではその続編として、デンマークでの研究活動に焦点を当てて、私が現地で取り組んだ研究の紹介と、そこから得られた気づきや学びをお届けします。
研究活動と成果
NFAは、労働者の健康と安全を専門に研究する国立機関であり、私たち労働安全衛生総合研究所と同様のミッションを担っています。
在外研究の期間中、身体活動パラドックス研究で世界的にも有名なホルトマン先生のチームで、私は「勤務中の身体活動が労働者の健康に与える影響」をテーマに研究を進めました。私たちが保有するデータの分析を通じて、現地研究者の視点も取り入れながら議論を重ねた結果、勤務時間の長さや労働環境が身体活動に及ぼす影響が明確になりました。特に、日本人労働者が長時間労働にさらされている現状が、改めて浮き彫りになったことは重要な知見です。現在、この成果をもとに論文を執筆しており、国内外の学会での発表も予定しています。
また、NFAが運用する大規模なサーベイランスシステム(こちら)の設計についても学ぶ機会がありました。センサーの標準化、データ処理、政策への応用までを見据えたこのシステムは、日本の労働衛生政策にも十分に活かせる可能性を持つ、先進的な枠組みでした。さらに、身体にかかる負荷と骨格筋系障害(MSD)に関する研究も、国際的に注目される分野であり、NFAはこの分野をリードしているといえる存在でした。最新のセンシング技術を活用し、作業中の負荷の定量評価や、健康障害予防のための改善策に関する研究( こちら)が多角的に展開されており、日本における労働災害予防やリスクアセスメントの高度化にも直接つながる学びとなりました。
くわえて、労働生産性と経済性(エコノミー)を両立させる研究(こちら)も非常に印象的でした。職場における健康と持続可能性のバランスを科学的に捉え、企業の価値創造と社会的インパクトを両立させる視点は、日本の労働衛生研究にとっても非常に示唆に富むものでした。産官学の連携を前提とした研究体制、政策への橋渡しの機能が強く意識されており、こうした姿勢は今後の研究推進の大きなヒントとなりました。
まとめ
今回の在外派遣期間から得た知見をもとに、日本の労働環境に適した勤務中の身体活動の基準策定や、健康リスクへの適切な介入策の提案を目指しています。また、NFAのようなデータ駆動型のサーベイランス体制を日本でも構築し、労働政策に活用していくことが今後の課題であることも深く考えるきっかけになりました。
研究環境だけでなく、デンマークの「効率的かつ健康的な働き方」に触れたことも大きな学びでした。長時間労働を前提としない働き方が、健康と生産性の両立にどれほど貢献するか、身をもって体験できたことは、今後の自身の研究だけでなく、日本の職場環境を考える上でも重要な示唆になりました。