【学会報告】第98回 日本産業衛生学会:その2

RECORDsメンバーが第98回日本産業衛生学会において発表
2025年5月14日~17日の4日間、仙台で開催された第98回 日本産業衛生学会において、RECORDsメンバーが登壇しました。(オンデマンド配信:2025年6月17日(火)~7月7日(月))
テーマ:過労死等申請者における脳心血管疾患既往者の既往後年数と過重労働の関係
【日時】5月16日(金) 【スタイル】一般口演
【演者】 守田 祐作
【内容】過労死に認定されうる脳・心臓疾患をすでに発症している者(既往者)は、脳心疾患の再発リスクが高くなるため、過重労働は避けるべき方です。しかし、過労死認定された方のうち6.6%が脳・心疾患の既往者でした。この6.6%の既往者の既往から過労死認定までの年数を調べると、1年後までは割合が少なかったのですが、既往後2年目に過労死認定される、つまり、過重労働をして脳・疾患を再発させてしまう方が多いことがわかりました。脳・心疾患を発症した直後1年ぐらいは大病をしたからと配慮されるものの、1年も経過すると、もういいだろうと過重労働をさせてしまって再発に至ってしまっているという状況があるのではないかと推測しています。会場からは、どの職種で既往者の過労死認定が多いのか質問がありました。運転従事者の割合が44%と高く、特に注意が必要な職種と考えられます。脳・心疾患既往者への過重労働を避ける配慮が望まれます。(守田 祐作)
テーマ:Occupational Mental Fitness Questionnaireの開発に向けた取り組み
【日時】5月16日(金) 【スタイル】ポスター
【演者】松尾 知明
【内容】質問紙の開発研究の成果報告をしました。この質問紙は体力の精神的要素(メンタルフィットネス)を評価するためのものです。私たちは労働者の健康問題を体力科学の立場から検討する研究に取り組んでいます。人の体力は身体的要素と精神的要素の2要素で構成されると言われる中、精神的要素に関する知見は深まっていません。私たちもこれまでは全身持久性体力など体力の身体的要素(フィジカルフィットネス)だけに着目してきたのですが、労働者のメンタルヘルスの問題が深刻化する中、数年前よりメンタルフィットネスの研究にも取り組み始めました。昨年度の同学会ではメンタルフィットネスの概念定義の研究について報告しましたが、その時に質問をされた方が進捗状況の確認にとブースに足を運んでくださいました。今後もこのテーマで発表できるよう研究を進めたいと思います。(松尾 知明)
テーマ:過労死ラインで働く者の疲労影響:断眠実験と現場調査のハイブリット・アプローチ
【日時】5月16日(金) 【スタイル】一般口演
【演者】 久保 智英
【内容】過重労働による影響は様々な研究でこれまで指摘されてきました。しかし、その指摘は「過重労働は健康や安全に悪影響である」といった漠然としたもので、具体的な状況と比較して、そのリスクがどの程度なのかについては検討されて来ませんでした。この研究では実験研究で測定した誰もが過労状態として認めるであろう40時間の断眠状態での疲労度を基準として、現場調査によって測定された長時間労働をしているIT労働者の疲労度と比較することで、過重労働によるリスクの重篤度を示すことが目的でした。結果としては現場調査で測定された月残業80時間以上(所謂、過労死ライン)で働いていた7名のIT労働者と、40時間断眠した者の反応時間検査の結果はとりわけ週の後半に同程度になる可能性が示唆されました。この知見は1回のミスやエラーが致命的な事故や怪我につながる医師、看護師、ドライバー等の職種に当てはめた場合、過重労働のリスクの重篤性を示す強いメッセージになると思います。しかし、現段階では予備的な解析なので、今後、対象者数を増やすこととともに血圧や睡眠等の指標も踏まえて検討する予定です。(久保 智英)
テーマ:病院事務局職員の過重労働・メンタルヘルス対策のための職場環境改善支援ツールの開発
【日時】5月17日(土) 【スタイル】ポスター
【演者】吉川 徹
【内容】本研究では、病院運営を支える事務局職員の過重労働を防ぎ、業務を円滑に進めることを目的として、参加型の職場環境改善支援ツールを開発しました。労災病院などに勤務する事務職員を対象にヒアリングや質問紙調査を行い、職務ごとの負担要因や健康リスクを明らかにしました。その結果をもとに、「いきいき職場づくりのためのアクションチェックリスト(病院事務職場版)」などを作成しました。これらのツールは、管理職研修やストレスチェック結果を活用した職場改善活動に役立てられることが期待されます。本報告は約140件のポスター演題のなかで産業医部会長賞に選ばれました。ポスター発表の会場では、これまであまり関心の寄せられなかった職種へのアプローチについて高く評価する声と、開発プロセスに関する質問が多く寄せられました。開発された手引き・チェックリストは当センターのウェブからダウンロードできます。(吉川 徹)