建設労働者のストレス、恐怖、不安に関する研究:システマティックレビュー

建設労働者のストレス、恐怖、不安に関する研究:システマティックレビュー
目次

出典論文

Carlos Gómez-Salgado, Juan Carlos Camacho-Vega, Juan Gómez-Salgado, Juan Jesús García-Iglesias, Javier Fagundo-Rivera, Regina Allande-Cussó, Jorge Martín-Pereira and Carlos Ruiz-Frutos.Stress, fear, and anxiety among construction workers: a systematic review.Front Public Health 11:1226914. doi: 10.3389/fpubh.2023.1226914

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37521990/

著者の所属機関

School of Doctorate, University of Huelva, Huelva, Spain

論文の内容

本論文は建設労働者のストレス、恐怖、不安に影響を及ぼす可能性のあるリスク要因を評価することを目的としたシステマティックレビューです。キーワードを「ストレス」「不安」「恐怖」「建設労働者」、発行期間は20121月~20231月、PubmedCochraneWeb of ScienceScopusPsycInfoの電子データベースを用いて、PRISMA形式で実施し、35件(アジア20件、北米5件、アフリカ4件、オセアニア4件、欧州2件)の論文が対象となりました。対象者は、26件が建設労働者全般であり、うち3件は技能労働者と現場監督(施工管理者)が区別されたもの、2件は外国人または移住した建設労働者、残りは特定の特性を持つ労働者でした。合計の対象者は13,399名でした。研究テーマは、ストレス研究が31件、不安研究が10件、恐怖研究が3件でした。

その結果、ストレス要因は、年齢、不適切な安全装備や安全文化、高い作業負荷、身体的苦痛、上司や同僚からの支援の低さ、経済状況、長時間労働などが示されました。また、ストレスが労働災害の原因となる可能性も明らかになりました。不安については、建設労働者の3750%が中等度~極めて重度の不安を示し、可能性があるリスク要因は、労働条件の厳しさ、長時間労働、安全文化、年齢、高い作業負荷、報酬の少なさ、民族性、知識不足、そしてCOVID-19パンデミックの特徴などが挙げられました。これらのリスク要因は、労働災害の増加とそれに伴う死亡率の上昇につながる可能性があると考えられます。本論文は、労働条件改善に向けた企業方針の策定や、建設業界におけるメンタルヘルスに関する知識の向上に役立つ可能性があります。これにより、労働安全衛生およびリスク予防に携わる研究者や専門家は、これらの心理社会的要因を特定し、それらのリスク要因の発生を最小限に抑えるための対策や提案を確立できると考えられます。

RECORDsメンバーによる解説

建設プロジェクトのほとんどは、完了期限の遵守が求められ、あらかじめ決められたリソースと時間枠に対応して作業を行うことがストレスの背景になっていると考えられます。本レビューでは、建設労働者のストレス・不安・恐怖に関するリスク要因は、労働条件、組織、個人に関連し、年齢、安全文化、そして特に現場監督(施工管理者)の長時間労働など、数多く存在することが示されました。

本レビューでは、労働時間がリスク要因の一つとして抽出されました。例えばOSI(Occupational Stress Index、(Belkic 2003;Belkic et al. 1995))を用いた研究では、多くの建設労働者が長時間労働とストレスを抱えており、労働時間は全体では110.4時間、その内約40%が112時間以上でありました。このように労働時間が長くなると、休息や余暇の時間が減り、疲労が蓄積され、様々なケガや事故のリスクが伴う可能性が考えられます。

安全文化は、高レベルのストレスや不安との関連付けの要因になります。実際、高レベルのストレスにさらされている多くの労働者は、安全対策の不遵守が原因で職場での事故を起こしやすく、ストレス下にある労働者の事故リスクは、ストレスのない労働者と比べて最大3.47倍高くなると示されています。

本レビューは海外の論文のみですが、日本の建設業の過労死等の精神障害における支給決定(認定)件数の最も多い認定要因は長時間労働であり本レビューと同様でした。認定に係る出来事(H24~R4年)の「2週間以上にわたって連続勤務を行った」は24.8%(全産業13.3%)※であり、過労死等の多い重点業種等の中で最も多かったです。次いで労働災害事故被害であり、それに該当する出来事「(重度の)病気やケガをした」が21.9%(全産業10.7%)※と最も多く、安全文化の対策も重要となります。このような建設労働者のリスク要因を軽減するにはメンタルヘルス対策も必要と考えられます。

※令和6年度過労死等防止対策白書

茂木 伸之(もてぎ のぶゆき)
記事を書いた人

茂木 伸之(もてぎ のぶゆき)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の研究員で、事案研究班に所属。専門分野は人間工学、労働科学、産業人間工学。道路貨物運送業の精神障害事案の分析と地方公務員の過労死等の公務災害認定事案の調査研究も担当。主要な職歴としては、公益財団法人大原記念労働科学研究所の特別研究員、武蔵野大学通信教育部の非常勤講師、武蔵野大学人間科学部の非常勤講師、千葉工業大学社会システム科学部の非常勤講師などがある。オフの時間の楽しみ方は千葉ジェッツと千葉ロッテマリーンズの応援。