不規則な睡眠と心血管疾患リスクの関連性​​​​​​​

不規則な睡眠と心血管疾患リスクの関連性​​​​​​​
目次

出典論文

Huang T. et al., Sleep Irregularity and Risk of Cardiovascular Events: The Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis. J Am Coll Cardiol. 2020; 75(9):991-999. DOI: 10.1016/j.jacc.2019.12.054.

著者の所属機関

Department of Medicine, Brigham and Women's Hospital and Harvard Medical School, Boston, Massachusetts.

内容

心血管系には1日24時間の概日リズムがあるが、日々の睡眠時間や睡眠タイミングの変動が大きいなど睡眠スケジュールが不規則な人は、概日リズムの乱れにより心血管疾患のリスクを高める可能性がある。本研究では、睡眠の規則性と心血管疾患リスクとの関連を検討した。MESA(Multi-Ethnic Study of Atherosclerosis)コホートのデータを使用した。2010年から2013年にかけて、心血管疾患がなく、7日間の手首での活動量計記録等により睡眠を客観的に測定できた1,992名を、2016年まで追跡した。睡眠の規則性は、活動量計で測定した7日間の睡眠時間と入眠タイミングの標準偏差(SD)により評価した。コックス比例ハザードモデルを用いて、睡眠時間および入眠タイミングのSDに応じた心血管疾患発症のハザード比(HR)を求めた。その際、従来の心血管疾患リスク因子およびその他の睡眠関連因子(平均睡眠時間等)を調整した。4.9年(中央値)の追跡期間中に、111の心血管イベント(生存・死亡含む)が生じた。睡眠時間の規則性について、心血管疾患のHR(95%信頼区間)は、睡眠時間のSDが≦60分を基準としたとき、61~90分で1.09(0.62-1.92)、91~120分で1.59(0.91-2.76)、120分超で2.14(1.24-3.68)となり、睡眠時間が不規則であるほど、心血管疾患リスクが高くなった(p trend = 0.002)。睡眠タイミングの規則性について、SD≦30分を基準としたとき、31~60分で1.16(0.64-2.13)、61~90分で1.52(0.81-2.88)、90分以上で2.11(1.13-3.91)となり、睡眠タイミングが不規則であるほど循環器疾患リスクが高くなった(p trend = 0.002)。これらのことから、不規則な睡眠時間と睡眠タイミングは、従来の心血管疾患リスク因子や睡眠の量や質とは独立した、心血管疾患の新規リスク因子である可能性が示唆された。

解説

このホームページでもいくつか紹介してきた通り、睡眠の量や質は心血管疾患のリスクと関連することが報告されている。これに加えて、本研究から、睡眠の規則性も心血管疾患リスクに関連することが示された。睡眠が不規則になる主な原因として、シフトワークや社会的時差ボケ(平日と休日の睡眠のタイミングのずれ)があげられるが、これらを考慮した感度分析も行われており、同様の結果が得られている。このことから、これら以外にも睡眠を不規則にする要因があり、それにより心血管疾患リスクが生じると考えられる。労働者においては、この原因として、不規則な勤務時間(それにより睡眠を取る機会となる勤務間インターバルが不規則になること)が考えられる。「脳・心臓疾患の労災認定基準」にも労働時間以外の負荷要因として「勤務時間の不規則性」がある。労働者においては、休み、特に睡眠を量的、質的に良く取れているかだけでなく、規則的にとれているかにも注意を払うことが必要であろう。

池田 大樹(いけだ ひろき)
記事を書いた人

池田 大樹(いけだ ひろき)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の主任研究員で、現場介入調査班と循環器班に所属。専門分野は睡眠学。質問紙による横断・縦断調査、睡眠計や疲労アプリを用いた観察調査、実験室実験などにより、過労死及びその防止に関する研究を、睡眠をメインとして実施している。