客観的な労働時間のデータの蓄積に基づいて作成された交替勤務の働き方に関するガイドラインの効果検証

客観的な労働時間のデータの蓄積に基づいて作成された交替勤務の働き方に関するガイドラインの効果検証
目次

出典論文

Härmä M, Shiri R, Ervasti J, Karhula K, Turunen J, Koskinen A, Ropponen A, Sallinen M. National recommendations for shift scheduling in healthcare: A 5-year prospective cohort study on working hour characteristics. Int J Nurs Stud. 2022 Oct;134:104321. doi: 10.1016/j.ijnurstu.2022.104321. Epub 2022 Jul 3. PMID: 35905662.

著者の所属機関

フィンランド国立労働衛生研究所

内容

交替勤務における健康や安全リスクを低減するための国によるガイドラインは国内外で散見される。しかしながら、そのガイドラインの活用が医療業界における実際の労働時間の変化にどれだけ結びついたのかについては不明な点が多い。そのため、本研究では36,663名の医療従事者(客観的な勤怠データの取得可能な6都市10病院所属)を対象にして5年間の追跡研究によって交替勤務の働き方に関する信号機ガイドライン(労働時間の長さ、労働時間のタイミング、回復期間、労働時間への裁量等)の遵守の効果を検証した。具体的には1)交替勤務に関する国のガイドラインに規定されている働き方が参加病院で遵守されているかどうかについて評価機能を交替勤務スケジューリングソフトの中に組み込んだ際に、どの程度、ガイドラインに沿った働き方になっているのか、2)そのスケジューリングソフトの使用とガイドラインに準拠した働き方への変化がどの程度、結びつくのかを検証した。

結果、2015年から2018年にかけて交替勤務のスケジューリングソフトの使用は2%から20%に上昇した。加えて、スケジューリングソフトの使用によって6日超の連続勤務(Odd ratio(OR); 0.73, 95% Confidence interval (CI) 0.66, 0.81)、4日超の連続夜勤(OR 0.86, 95% CI 0.77, 0.95)、11時間未満の勤務間インターバルの割合(difference 0.63, 95% CI 0.43, 0.83)は、それぞれ減少した。一方、1日だけの休日(difference 0.33, 95% CI 0.15, 0.51)、40時間超の週労働時間(OR 1.16, 95% CI 1.10, 1.22)、12時間以上の勤務シフトの割合(OR 1.22, 95% CI 1.07, 1.38)は、それぞれ増加した。以上の結果から、著者らは、シフトスケジューラーの一機能として、国によるガイドラインの遵守が評価できる機能を追加して活用することは、ガイドラインに規定されている働き方に向けたいくつかの改善と結びつくと結論付けている。

解説

本研究で検討されているガイドラインは、フィンランド労働衛生研究所から「労働時間による健康と安全リスク低減のためのFIOH“信号機”ガイドライン(The FIOH “Traffic light” national recommendations to decrease the health and safety risks of working hours)」である。このガイドラインは信号機になぞらえてリスクの高さを知ることができる非常にユニークな形式であることと、各項目に具体的な数値が記載されているので、実効性のあるガイドラインであると思われる。フィンランド労働衛生研究所のMikko Härmä教授が中心になって2008年ごろから、研究所が病院に配布したシフトスケジューリングソフト「Titania」から取得された客観的な労働時間データを用いた前向き研究プロジェクトが行われている。そのプロジェクトによって数多くの知見が世に出されているが、このガイドラインはそれらの知見に基づいて算出された基準値なので実態に即したものになっている。日本においても、このようなエビデンスに基づいたガイドラインの作成と普及が今後の交替勤務者の労働安全衛生の水準を高めるためには重要であると考えられる。

久保 智英(くぼ ともひで)
記事を書いた人

久保 智英(くぼ ともひで)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の上席研究員で、専門分野は産業保健心理学、睡眠衛生学、労働科学。労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所の他、産業医科大学での職歴を持つ。フィンランド国立労働衛生研究所での客員研究員としての活動も経験。モットーは「やってやれないことはない、やらずにできる訳がない」。研究のイロハを教えてくれた師匠たちを尊敬している。