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オフの量と質から考える働く人々の疲労回復(これからの労働時間制度に関する検討会(2022年3月29日))

オフの量と質から考える働く人々の疲労回復(これからの労働時間制度に関する検討会(2022年3月29日))
目次

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資料概要

本資料は、RECORDsメンバーの久保智英研究員が厚生労働省主催の「これからの労働時間制度に関する検討会」にて説明したものです。

講演の概要

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1.「過労死」という言葉が「Karoshi」として国際語になっています。2002年にオックスフォード英語辞典に「Death brought on by overwork or job-related exhaustion'' - areflection of the strains imposed by Japan's strong work ethic」として登録されてしまったことは日本の労働衛生にとって非常に不名誉な出来事としてとらえることができるでしょう(P.2)。

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2.過労死前の前駆症状を活用して開発した「過労徴候しらべ」調査票の得点と、過労死最多職種であるトラックドライバーの働き方との関連を検討した結果、もっとも密な関連性が認められたのは残業時間や夜勤回数ではなく、睡眠時間の短さでした(P.5)。

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3.睡眠時間が短いことは様々な健康や安全リスクにつながります(P.9-10)。慢性的な睡眠不足が続くと、自分は眠くないと思っていても実際に作業をしてみると、徹夜した状態と同程度の作業成績になることが示唆されています。

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4.新しい過重労働対策として勤務間インターバル制度が注目されています(P.11)。その効果を支持する知見も徐々に増えています。

5.しかし、少し想像してみてください。勤務間インターバルを11時間に設定した生活をシミュレーションすると、週5日勤務の場合、80時間の月残業が可能となります。つまり、80時間の月残業時間は、これまで労働衛生分野で主張されてきた「過労死ライン」と同じところにあるということです。したがって、勤務間インターバルという言葉は新しいものですが、11時間の勤務間インターバルは「最後の砦」という意味になるということです。

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6.何事もそうですが、1つの対策ですべてが解決することはありません(P.19)。くわえて、海外でのルールを働き方も働く人も違う日本にそのまま当てはめてもうまく機能するとは思えません。そこで、日本の風土に合った勤務間インターバル制度を作り上げていく工夫が重要だと思います。

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7.情報通信技術の発達で何時でも何処でも働ける状況が増えています(P.25)。具体的には帰宅時の電車の中でスマホを見て仕事のメールを返す等の状況を想像して下さい。以前は、職場を離れれば物理的にも心理的にも仕事からの拘束から逃れることができましたが、現在は物理的に職場から離れても心理的には拘束される状況があります。ドイツの産業保健心理学者であるソネンターグ教授はサイコロジカル・ディタッチメントという概念がストレスの解消、疲労の回復には重要であると提唱しています。

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8.勤務間インターバル制度が普及したとしても勤務時間外でのメールなどの連絡が多ければ疲労回復効果は低減することが示唆されています(P.29)。

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9.海外では勤務時間外での仕事の連絡を規制する「つながらない権利」が法制化される国が増えつつあります(P.30)。

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10.しかし、オフでも仕事につながりたいと思っている人が一定数いることは事実です(P.34)。そういった人たちを無視してルールを押し付けても絵に描いた餅になるでしょう。ただし、個人の嗜好性を考慮したとしてもそれは最適な仕事のパフォーマンスを発揮できる許容量の中での話です。それを超えて働けば、どのような嗜好性を持っていても過重労働になって安全性、健康性が低下することは明らかです。

11.そのような意味でも、近未来の職場においては、「勤務間インターバル制度」や「つながらない権利」などの法規制に定められた疲労対策に加えて、自分たちの職場の疲労問題については自分たちで対策を考えて実行し、それを評価するようなPDCAのシステムの構築が重要だと思います。

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12.いずれにしても、今後、益々、情報通信技術の発達によって仕事がプライベートに侵食してくることを考えれば、オフには仕事から物理的にも心理的にも離れられるような状況やスキルを組織的な対策、個人的な対応によって確保することが重要だと思います(P.37)。

久保 智英(くぼ ともひで)
記事を書いた人

久保 智英(くぼ ともひで)

過労死等防止調査研究センター(RECORDs)の上席研究員で、専門分野は産業保健心理学、睡眠衛生学、労働科学。労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所の他、産業医科大学での職歴を持つ。フィンランド国立労働衛生研究所での客員研究員としての活動も経験。モットーは「やってやれないことはない、やらずにできる訳がない」。研究のイロハを教えてくれた師匠たちを尊敬している。